H.G.ウェルズ「くぐり戸」

生成AIで創ったくぐり戸の画像 数年に一度読み返したくなる短編小説。僕は、1度読んだ本を読み返すことはほとんど無い。しかし例外がいくつかある。その一つがH.G.ウェルズの短編「くぐり戸」。「タイムマシン」「宇宙戦争」など、SFの父といわれるウェルズ…

塩田武士「踊りつかれて」

もうひとつの爆弾。 遊説中の首相めがけて手製のパイプ爆弾が投げつけられた2024年4月15日、もう一つの爆弾がインターネット上に投げ込まれた。その爆弾とは、誹謗中傷の加害者83人の人間のプライバシー情報の暴露である。83人は、お笑い芸人の天童ショージ…

伊与原 新 「藍を継ぐ海」

初めて読む著者。第172回直木賞受賞作。NHKのドラマ「宙わたる教室」の原作者でもある。書店で著者の作品を探すと、文庫で10冊近く並んでいて、けっこう人気がある人なんだとわかる。短編集というよりは中編集かな。50ページほどの物語が5篇収められている。…

ユヴァル・ノア・ハラリ「NEXUS 情報の人類史」

nexus 読後感 読み終えた瞬間の気持ちは、あの映画のエンディング。 少年「嵐が来るよ」 サラ・コナー「知ってるわ」 である。 長いので読もうかどうか迷ったけれど、結局、読むことにした。読んで本当によかったと思う。本書を読み終えて、この1年ぐらい疑…

渡辺正峰『意識の脳科学「デジタル不老不死」の扉を開く』

かなりぶっ飛んだ本である。 以前、同じ著者による「脳の意識 機械の意識」を読んだが、100ページも読まないで挫折。とても興味あるテーマなのだが、前半の構成が平板だったせいか、退屈してしまった。今回は大丈夫かな? 以下、amazonの紹介)驚愕の研究、最…

アレックス・ガーランド監督「シビル・ウォー アメリカ最後の日」

既視感。 主人公たちのワシントンDCへ向かう旅が始まると、既視感というのか、過去に観た映画の印象が次々に蘇ってきた。二人の若者がバイクでアメリカを旅する「イージーライダー」、陸送ドライバーがわけもなく暴走を続ける「バニシングポイント」、最近で…

数多久遠「有事 台湾海峡」

石破政権が誕生し、衆議院は解散へ。米国では大統領選挙のキャンペーンが進行中。その日米の政治的空白を突いて、中国が台湾海峡で事を起こそうとしている。2024年の、まさに「今」が舞台とも言える小説。著者の数多久遠は元幹部自衛官。その作品は、ほぼ全…

小沢慧一「南海トラフ地震の真実」

「30年以内に70〜80%」は嘘?自宅の集合住宅の防災委員を務めていることもあって「南海トラフ地震」は、目下のところ最優先のテーマである。この地震を語る時、枕言葉のようにくっついているのが「30年以内に70〜80%の確率で発生する」という長期評価である…

村上春樹「街とその不確かな壁」

また、そこに戻っちゃうの? というのが、読み始めての印象。 第一部は、1985年発表の「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」の中の「世界の終わり」の部分と、1987年発表の「ノルウェイの森」を、三十数年後にもう一度読み読み直している感じ。とい…

桂 幹「日本の電機産業はなぜ凋落したのか」

何が原因?誰の責任? 広告制作の現場から離れて10年近くになるが、いまだにわからないというか、納得できないことがある。それは「日本の電機産業が、なぜあれほど急激に凋落したか?」ということ。僕のコピーライターとしてのキャリア約40年のうち、家電メ…

大阪マラソン2023完走記

大阪マラソン2023 2022年11月20日の神戸マラソンから3カ月後の2月26日。5回目の参加になる大阪マラソンを走った。2022年の大阪マラソンの一般部門がコロナのせいで直前に中止になり、出走の権利が今年にそのまま持ち越された大会。追加募集があったらしいけ…

神戸マラソン2022完走記

2022年11月20日9時15分スタート(第2ウエーブ)天候:曇り一時雨。記録:5時間24分47秒(グロス)5時間24分41秒(ネット) ポートアイランドに向かう橋の上 2020年。もうマラソンに出るのを止めようかと思っていた。 2018年の神戸マラソンで完走した…

逸木 裕「電気じかけのクジラは歌う」

前回投稿の「風を彩る怪物」の著者による音楽SF or ミステリー?。 個人的には音楽を題材にしたSFだと思うが、現在では普通の小説とSF小説の壁は融解しつつあり、本書ぐらいの近未来設定であればもうSFと呼ばないほうがいいのかもしれない。 AIが音楽を創り…

逸木裕「風を彩る怪物」

ほぼ一年ぶりの投稿になってしまった。本はそこそこ読んでいるのだが、年齢のせいか、感想を書く集中力が不足しているのが主な原因。久しぶりなので書けるかどうか心配だ。 オルガン小説? 本書は、帯の「『蜜蜂と遠雷』以来のスペシャルな音の洪水。」とい…

玉岡かおる「帆神」

江戸末期に活躍した播磨高砂の英雄、工楽松右衛門の生涯を描いた小説。著者は兵庫県出身の小説家。初めて読む人だ。 もう随分前になるが、友人で建築家のY君に誘われ、高砂市のイベントに出かけたことがあった。Y君はその当時「兵庫ヘリテージ」といって、県…

映画「ノマドランド」

こんなに寒々とした映画だったのか。 Hさんがレビューを書いていたので、興味を持ち、Amazon Prime Videoで視聴。米国では2008年のリーマンショックにより多くの高齢者が自宅を失ったという。その多くが自家用車で寝泊まりしながら、仕事を求めて全米各地を…

岸 政彦「ビニール傘」

前回エントリーのエッセイ集「大阪」は、今までにない切口の大阪が描かれていて新鮮だった。著者のひとりであり、社会学者でもある岸氏の小説も読んでみることにした。「ビニール傘」とは思い切ったタイトル。本書にはもう一編、「背中の月」という中編が収…

岸 政彦・柴崎友香「大阪」

NHKのEテレで「ネコメンタリー 猫も、杓子も」という番組があって、作家や学者が猫と暮らす日常を記録したドキュメンタリーだが、この番組を見て、本書の著者のひとりである岸政彦氏を初めて知った。番組の中で描かれた、著者が散歩する街の風景が、大阪の港…

「春よ、来い」1995・2011

以前に井上陽水の「傘がない」のことを書いた。もう1曲、僕にとって特別な曲がある。松任谷由実の「春よ、来い」。この歌について書いてみたい。 1995年の阪神大震災だった。 時間が、1月17日の、あの瞬間で止まってしまったようだった。色彩が消え、音が消…

桐野夏生「日没」

本書は割と早く購入していたが、今の僕には、内容が辛そうなので、ふた月近く手をつけなかった。読み始めたのは購入から2ヶ月ほど経ってから。主人公はエンタメ系の女性小説家。時代は現在からそう遠くない近未来だ。著者は、冒頭近くで「市民が国民と呼ばれ…

隈研吾・清野由美「変われ!東京 自由で、ゆるくて、閉じない都市」

世の中、あっちもこっちもクマ、クマ、クマ!なんで? 2007年のサントリーミュージアムあたりからだろうか。根津美術館、歌舞伎座の改修、国立競技場、高輪ゲートウェイ駅、渋谷スクランブルスクエアなどなど・・・。東京における話題の建築は、隈研吾の一人…

村上春樹「猫を棄てる」

「小さな本」だ。 ハードカバーの新書サイズでページ数も100ページほど。台湾のイラストレーターによる叙情的な挿画ページもしっかりあるので、本文はさらに短い印象を受ける。1時間ほどでスルッと読めた。しかし、この「小さな本」の読後感は、長編小説を読…

本が読めなくなった。

春頃から急に。 今年の3月頃から、急に本が読めなくなった。症状はこんな感じ。読み始めて数ページも進まないうちに集中が途切れ、本を閉じてしまう。目は文章をたどり続けているのに数行過ぎてから意味が入ってこないことに気づく。それとすぐ眠たくなる・…

新井紀子「AIに負けない子どもを育てる」

「A I ブーム本」っぽいが、内容は正反対。 前作の「AI vs 教科書が読めない子どもたち」と同じく「AIブームに乗っかって売らんかなの意図丸出し」のようなタイトルだが、中身は全然違っている。逆にAIブームの不毛さを警告するような内容である。そして何よ…

水野良樹が気になる。

音楽と言葉についての考察、その3かな。 最近、とても気になっているミュージシャンがいる。水野良樹という人。「いきものがかり」というグループの名前は知っていても、リーダーの名は知らないという人は多いのではないか。僕も知らなかった一人だ。「SAKU…

「傘がない」ということ

音楽を言葉で語れるだろうか。 前回、恩田陸の「蜜蜂と遠雷」の感想を書いてみて、音楽を言葉で語ろうとすることの意味や難しさをあれこれ考えた。このブログの下書きには、音楽について書こうとした文章は、けっこうあるのだが、そのほとんどが書きかけのま…

恩田 陸「蜜蜂と遠雷」

恩田陸は、わりと読んでいるかな。デビュー作の「六番目の小夜子」から「夜のピクニック」などの学園モノから、「球形の季節」などのミステリー、「光の帝国」のような伝奇ロマンも嫌いじゃない。本格的なミステリーというより、ちょっとオカルトがかった世…

ランニング用左右独立型ワイヤレスイヤホン購入記。

ふだん音楽を聴くのは、週2〜3回のランニングの時のみ。仕事場への通勤の電車は読書にあてているし、家でも仕事場でも音楽はあまり聴かない。それでも1回のランでだいたい1時間から2時間は走るので、週に3〜5時間は音楽を聴いていることになる。そのた…

山崎広子「声のサイエンス あの人の声は、なぜ心を揺さぶるのか」

日本人の80%は自分の声が嫌い。 仕事柄、取材やインタビューなどで録音された自分の声を聴くことが時々あるが、そのたびに、ほとんど生理的と言ってもいいほど強い拒絶反応が起きる。「なんで自分の声は、こんなに薄っぺらで、フニャフニャしてて、貧相なん…

最後のクルマ選び その3

散々迷った挙句、「最後のクルマ選び」の決め手となったのはディーラーの近さとは。そして決めたのは、エコカーでもEVでもハイブリッド車でもなく、ましてやディーゼル車ですらない、オーソドックスなガソリンエンジン車。VW ゴルフ バリアント。クルマ選び…