神戸マラソン2022完走記

2022年11月20日9時15分スタート(第2ウエーブ)天候:曇り一時雨。記録:5時間24分47秒(グロス)5時間24分41秒(ネット)

ポートアイランドに向かう橋の上

2020年。もうマラソンに出るのを止めようかと思っていた。

2018年の神戸マラソンで完走したのが最後。それ以降、完走すらできない大会が続いていた。完走できない理由は明らかに練習不足で、練習不足の理由はモチベーションが保てなくなっているせいだ。マラソン参加も20回を越え、だんだんマンネリ化してきている。記録も2011年の篠山マラソンで出した4時間34分を超えられず、最近では5時間を越えることも多くなっている。

数年前から「自分はマラソンに向いてないのでは?」と思い始めた。

中学で陸上部に入った時、迷わず短距離種目を選んだ。小学校高学年から足が速かったこともあったが、いわゆる持久走が苦手だった。同じ学年で中距離以上を目指す部員は、最初から持久走が明らかに速かった。彼らは、それまでに持久走のトレーニングなどしたことがなかったから、元々心肺機能が優れていて、中長距離に適性があったのだと思う。マラソンを始めてからも、練習量は僕とほとんど変わらないのに、サブ4やサブ3.5の記録を出せる知人が何人かいる。彼らは元々心肺機能が高く、筋持久力が優れていて、長距離走に適した身体を持っているのだと思う。もちろんそうではない僕のような普通のランナーでも練習を積めば、ある程度の記録を出せるようになるのだろう。しかしそれは、本来の自分に適していない競技に無理やり自分を合わせているのではないか?そんなことも考えたりするようになってきた。それと60代後半になって、体力が目に見えて落ちてきていることも、モチベーションが下がる原因の一つになっていると思う。

ランニングは好きだが、マラソンは好きじゃない。

それと、マラソン大会への参加そのものが苦痛になりつつあることもモチベーションが保てない理由の一つであるかもしれない。ランニングの良いところは「自分一人で、好きな時に、好きな場所を、好きなように走れる」ということだ。他のスポーツのように相手やチームの仲間のことを気にしなくてもよくて、自分の都合だけ考えればいいのである。しかし、マラソン大会に参加するとなると、決められた場所、決められた時間に、決められたルールで走らなければならない。大規模な市民マラソンになると何万人のランナーが参加するため、受付や集合の時間、場所、手続きなどが厳密に決められている。会場の行き帰りも、長い行列に並んだり、混み合った場所で着替えたりするのは当たり前である。僕は、元々人混みや行列が苦手で、行列ができるレストランなどはまず行こうと思わない。多くのマラソン大会ではトイレに行列ができるのは当たり前で、10分〜30分の待ち時間は普通である。スタート前の整列も数十分は待たされるのは普通である。この数年、高齢になってトイレが近くなったせいもあり、大集団での行動がますます苦手になりつつあり、そこにコロナも加わって、もうマラソンに参加するのを止めようと思ったこともある。大会に参加せずにランニングだけを楽しむのも「あり」だと思っていたが、やはり何の目標もなく走るのは味気ないと感じる。ネットで大会の募集が始まると、どうせ当たらないだろうと応募してしまう。それで当選したのが今年の2月の大阪マラソンだった。当選したものの、コロナで中止になるだろうと思って練習にも身が入らなかった。しかし年が明けても、中止の発表はなく、これは開催するかもしれないと、あわてて練習を始めたが、直前になって一般参加の部は中止になった。大会が中止になると、大抵翌年の大会に参加する権利が得られる。一年先なら、コロナもおさまって、練習もしっかりできるだろうと思って参加することにした。

神戸はどうせ当たらないだろう。

神戸マラソンも、どうせ当たらないだろうと思い、安易に応募した。秋に開催されるマラソンの難しさは、主な練習が夏の暑い時期になってしまい、最近のように猛暑日が続くような夏には充分な走り込みができないことである。来年2月の大阪マラソンを目指して、夏の練習は程々にしようとのんびり構えていた8月のはじめに、神戸マラソンの当選通知のメールがきた。5回目の当選。今回が10回目の大会なので2回に1回は当選していることになる。神戸の抽選の倍率は4倍弱と言われているので、結構高い確率だと思う。マラソンの神様が気に入ってくれてるのかな?しかし練習が間に合わない。猛暑日が続く中、思うように距離を伸ばせないまま10月を迎えてしまった。ちょうど大会1ヶ月半前に30kmに挑戦したが、暑くて、軽い熱中症・脱水症状になってしまい、25kmしか走れず、最後の5kmは歩いた。翌週にも距離を伸ばそうとしたが、25kmにとどまった。距離を踏めないまま、本番を迎えることになった。

新しいシューズの貢献。

10月半ばにランニングシューズを購入。それまでは、フィット感とクッション性を重視したナイキの初心者用のモデルを履いていた。6月にスポーツショップのバーゲンで買ったのだが、ソールが柔らかすぎて、足首の安定感が足りないように感じていた。新しく買ったのはアシックスのMAGIC SPEEDという新製品だ。カーボンプレートが入っていて適度な反発力があり、違和感ない程度の厚底も好ましかった。自宅近くのスポーツショップで試し履きしてみて良かったので、1週間後に買いに行ったら、品切れで次の入荷も未定とのこと。大阪市内に出かけた時にグランフロントのアシックスストアで買うことができた。このシューズは効果抜群で、前のシューズと同じよう感覚で走っていても、1キロで30秒は速くなる感じ。ソールもしっかりしていて、足首の不安もかなり解消されたと思う。新しいシューズのおかげで10月は気持ちよく練習できて、走破距離は250kmを越えた。唯一の心配は天候。週間予報は「曇り一時雨」から「曇り時々雨」に変わっていた。

当日。天気は曇り時々雨。

目覚まし時計は4時半に設定していたが、4時前に雨の音で目が覚めてしまった。仕方なく4時に起床。朝食は、紅茶とトースト1枚、バナナ1本、ゴマ団子1個。ランニングの装備を着て、その上にナイロン+フリースのジャケットとジャージのパンツを履いて、予定より半時間ほど早く6時前に家を出る。気温は10度ぐらいで、ちょっと寒い。雨は小降りになっていたが、駅に向かう途中で雨足が強くなり、傘をさして駅に向かう。会場の受付は7時からなので、かなり余裕がある。阪急の神戸三宮駅に6時半すぎに到着。改札内のトイレは数人の行列ができており、その列に並ぶ。改札を出て、サン地下の通りに降りて南に向かう。

第2ウエーブスタート。

国際会館の前から地上に出ると、そこにゲートが設けられ、検温のスタッフが待機している。数分で7時になり、検温を受ける。検温を済ませると手首に巻く紙のリングが渡され、その場で身につける。僕が手荷物を預ける場所は、さらに南の「みなとのもり公園」なので、南に向かって歩いていく。雨はほとんど止んでいて、傘を刺さずに歩く。途中にも検温ゲートが設けられ、手首の検温ずみリングを見せないと通れないようになっている。前回までは手荷物預かりは東遊園地周辺だったが、今回はウエーブスタートとなり、第2ウエーブスタート組は、もう少し遠くなっている。阪神高速神戸線の下をくぐると公園の入口で、ここでゼッケンを見せて中に入る。公園を取り囲むように荷物トラックが停車している。どこで着替えようか?更衣用ののテントが見えたので、中を覗いてみると満員状態で、しばらく待たないと空きそうにない。諦めて他のスペースを探すことにする。手荷物預かりのトラックの近くに広場があり、ベンチもあるので、そこで着替えることにする。着替えるといっても、すでにラン用のウエアを着ているので上着やジャージのパンツを脱いで手荷物袋に入れるだけ。寒い。凍える程ではないが、風がかなり強くて、体温を奪っていく。使い捨てのビニール製ポンチョを取り出して頭から被る。スタートまで1時間以上あるが、手荷物をトラックに預けてスタートブロックに向かう。その途中、駅から会場に向かうランナーの行列を見て、その多さに驚く。スタートブロックはJで第2ウエーブの先頭だ。時間が早いので、前から3列目あたりに並ぶ。スタートまでまだ1時間以上ある。いつも大会当日は余裕を持って行動するようにしているが、その代償として長い待ち時間を我慢しなければならない。最近は待ち時間に周りのランナーと話すことで時間を潰すことにしている。「神戸は初めて?」「どちらかから来られました?」「雨は大丈夫そうですね」と話題には事欠かない。今回は関東から全国のマラソンに参加しているベテラン女性ランナーと神戸は初めてという姫路から来た女性ランナーと会話を楽しんだ。ブロックに並んでいる時に後ろのほうから男性の叫び声が聞こえてきた。整列ブロックそばのビルの駐車場から出ようとして道路が封鎖されているので怒って叫んでいるのだ。警備員だけでなく、並んでいるランナーに対しても怒鳴っている。その筋の人の典型的な恫喝だ。叫んでいるだけでは飽き足りなくなったのか、クルマ(メルセデスSUV:黒)に戻ってクラクションを鳴らし始めた。うるさい。怒りのあまり、ランナーの列にクルマでランナーの列に突っ込まれたら怪我人が出るかもしれない。クラクションが鳴るたびに周囲もざわつく。10分ぐらいして係員がやってきて、道路封鎖の一部を開け、クルマを動けるようにして、一件落着。周囲のランナーもホッとしている。

装備の記録。

装備を記録しておこう。シューズはアシックスの新製品「MAGIC SPEED2」カーボンプレート入りの厚底で、適度な反発力とクッションで最初から違和感なく走ることが出来た。ボトムはIGNIOの膝丈・透湿速乾パンツ。トップはノースフェイスで透湿速乾の長そでTシャツ。帽子は雨に降られることを考慮して、モンベルゴアテックス防水キャップ。使いふるしてロゴもかすれて見えないウエストバッグには、雨が強く降ってきた時に着るモンベルの超薄&超軽量ウインドブレーカー、3回分のジェルサプリ、塩タブレット3個、ポケットティッシュ2個、現金5千円と小銭300円を収納。スタート前の寒さ対策で、ビニールポンチョを被る。

スタートまで。

8時45分。ようやくスタートセレモニーが始まる。ゲストや招待選手、ゲストランナーの紹介が延々と続く。そしてお約束の黄色手袋による万歳。9時。第1ウエーブスタート。号砲は斉藤知事。目の前をランナーたちが通過していく。なかなか途切れない。5分ぐらいでようやく第1ウエーブのスタートが完了。ブロックの先頭にいたスタッフがロープを持ちながらランナーを誘導していく。フラワーロードを神戸市役所の前まで進む。進む間に、道路脇のゴミ箱にビニールポンチョと万歳用の手袋を捨てる。先頭から5列めぐらい。これならスタート時点のロスタイムは数秒足らずだろう。「スタート30秒前」のアナウンス。号砲は久元市長だ。先頭に近いので最初から速いペースで始まる。すぐ左に折れて西国街道を西に向かう。大丸の前を左折し、南京町の入り口を通り過ぎ、すぐ右折。栄町通りを西へ向かう。最初の1kmは6分27秒。少し速い気はするが、6分30秒〜50秒あたりを維持できればいいことにする。神戸中央郵便局の前を右折し、JRの下をくぐり、すぐに左折して西に向かう。まもなく5km。当然のごとく、気持ち良いほどどんどん抜かれていく。走り込み不足を自覚しているので、同じリズムで走ることを心がける。須磨の手前で国道2号線に入る。山陽電車須磨駅あたりで10km通過。しばらく走ると海沿いに出る。ここから先は海を左に見ながら走る。淡路島と明石大橋が遠くに見える。折り返しはまだまだ先だ。神戸マラソンのコースはシンプル。往路はひたすら西に向かい、明石大橋のたもとを過ぎて折り返し、復路はひたすら東に向かう。4回目にもなると、通る街並みもほぼ覚えてしまい(地元なので土地勘もある)コースが単調に感じられる。

20kmの壁。

「応援navi」というアプリによると5kmごとのラップは以下の通り。

5km:33分59秒。

10km:33分57秒

15km:33分19秒

20km:35分09秒

25km:33分51秒

30km:38分25秒(トイレ)

35km:40分46秒

40km:48分21秒

42.195km:18分06秒

「20kmの壁」

よく「30kmの壁」と言われるが、今回は「20kmの壁」だった。長い距離は4週間前に25kmを走ったのが最長で、折り返してからが苦しくなると予想していたが、明石大橋の先で折り返してからやっぱり足が止まった。風が北東で向かい風になったことも影響しているかもしれない。20kmを過ぎたところで一旦止まってストレッチングとサプリ補給を行なった。少し元気が出てラップも回復している。しかしその後のラップは落ちる一方でキロ7分も切れなくなっている。30kmの手前、須磨の先で往路から外れ、市街地に入るが、この区間が一番きついと感じる。市街地ではあるが、工業地域で殺風景なのと、道がまっすぐで単調なので、余計に疲れを感じてしまう。5kmごとの休憩とサプリ摂取をご褒美にして、無理やり足を動かす。ようやくノエビアスタジアム中央市場、ハーバーランドなど、わかりやすいランドマークのある区間を過ぎると、最後の難関、浜手バイパスに入る急坂にかかる。ここは迷わず歩く。足の裏全体が痺れるような感覚になり、接地感がない。坂を登り切ったところから再び走り出すが、長くは続かない。歩いたり、走ったりで自動車専用道路の単調な景色の中を進む。ところどころ、側壁が切れて、ゴールであるポートアイランドが見えるのが救い。

ゴール。

道は右にカーブしてポートアイランドに渡る橋に出る。高さもあるので眺めは良い。振り返ると、六甲の山並みと神戸の市街地、神戸港が一望できる絶景ポイントだが、風景を楽しむ余裕はない。橋の上で40kmを通過。坂を下ってポートアイランドに入る。以前は島に入ってからが結構長くて心が折れたが、今回は少しだけの遠回りでゴールに向かう。最後のカーブの外側で有森裕子さんが声をかけてくれる。そしてゴール。5時間24分41秒(ネット)。記録は例によって大したことはないが、とりあえず完走できた。タオル、完走メダル、ドリンクを受け取って手荷物コーナーへ向かう。向かいの建物に更衣スペースが用意されているが、みんな屋外で着替えているようで、僕もスペースを見つけて着替える。着替えると言っても走ってきたTシャツを脱ぎ、フリースのシャツに着替え、ジャージのパンツを履くだけ。靴もスニーカーに履き替える。5分ほどで着替えを済ませ、会場を出る。ポートライナーの駅に向かおうとすると、待ち時間が20分以上の表示。シャトルバスは10分の待ち時間になっているので迷わずシャトルバスの方へむかう。幸い、バスは待ち時間なしで乗車できた。前回もシャトルバスを利用したが、乗車してからが随分長くかかった記憶がある。今回は15分ほどで三宮の神戸市役所前に到着。そこから歩いて阪急の神戸三宮駅に向かう。駅に向かうランナーの中には足を引きずっている人も多い。30分あまりで宝塚に到着。宝塚南口で降りるはずが寝落ちして、宝塚まで行ってしまった。自宅に戻り、ぬるめの風呂に入って手足をほぐす。夕食はボージョレーヌーボーで完走を祝う。寝る前に血圧を測ると83/46と異常に低かった。水分はしっかり摂ったつもりだが、脱水症状になっているのだろう。筋肉痛は翌々日まで残った。1週間は休養して、2月の大阪マラソンの練習に入る。