半藤一利「日本のいちばん長い日」2本の映画とともに。

最初に1967年公開の岡本喜八監督作品をテレビで観た。次に2015年公開の原田眞人監督作品を映画館で観た。最後に原作を読んだ。

岡本喜八監督作品「日本のいちばん長い日」

戦後70年という、この夏、昭和史」を読んでみようと思った。テキストに選んだのは、本書の著者でもある半藤一利の「昭和史」。ちょうど夏休みに入った頃、NHK-BSで1967年公開の「日本のいちばん長い日」を放送していたので録画して鑑賞。公開当時、僕はたぶん中学生で、全然観たいとは思わなかった。いま観ると、十分見応えがある。当時の東宝のスターたちが総出演した超大作で、笠智衆志村喬三船敏郎など、今はほとんどが鬼籍に入った往年の名優たちが顔を揃えているのが圧巻だ。30人近くの顔と名前を思い出して一致させる作業が楽しい。クーデターを企てる青年将校の畑中少佐を演じる黒沢年男が鮮烈だ。画面はモノクロで、演出も抑えめ。誰が主人公というわけではなく、歴史的な瞬間をドキュメンタリー映画のように再現しようとしたのだろう。昭和天皇に2度の御聖断を仰ぎ、終戦に導いた立役者である総理大臣・鈴木貫太郎を演じた笠智衆が薄味すぎてちょっと物足りなかった。

原田眞人監督作品「日本のいちばん長い日」

岡本版から48年、製作・配給は松竹。岡本版のオールスター総出演に比べるとこじんまりしている。主要な人物を阿南陸軍大臣、鈴木貫太郎首相、昭和天皇、迫水書記官、畑中少佐に絞り込んで、丁寧に描いた。岡本版ではほとんど顔が見えなかった昭和天皇を元木雅弘が演じた。原作では、天皇の苦悩と意志、そして決断が前半の山場になっているが、岡本版では、天皇を描くのが畏れ多かったのか、ほとんど描かれていなかった。原田版では、元木が天皇の口調など、しっかりと演じている。老練な首相、鈴木貫太郎は、山崎努が、怪演ともいえる演技で、笠智衆とは正反対の役作りで見せてくれる。全体に岡本版ほどの重厚感はないが、終戦の最大のドラマを丁寧に描いてあると思った。

半藤一利「日本のいちばん長い日 決定版」

2本の映画を観てから原作を読むという、僕としては異例の読書。情報量としては原作のほうが圧倒的に多いので、映画がどの部分に焦点を当てようとしたかがよくわかる。本書は、著者が文藝春秋社編集者時代、当時の関係者に直接取材して執筆されたドキュメンタリーである。当初は様々な事情により著名なジャーナリストであった大宅壮一編というかたちで出版された。本書を読んでのいちばんの収穫は、昭和天皇の人柄や意志が、あの戦争を終わらせる直接の力となって働いたことを知ったことだろうか。いっぽう本書を読んでも理解できないのが、戦況があれほど悪化しても、天皇の御聖断が下った後も、本土決戦を強硬に主張する勢力が存在したことだ。米軍を、九州の水際において、総力を挙げた特攻で撃破し、より有利な条件で講和を結ぶという。そんな幻想をなぜ信じることができたのだろう。阿南陸相の主張や、畑中少佐をはじめとする青年将校たちの熱狂も、現代の僕たちの頭では、まったく理解できない。国を亡ぼすほどの狂信や熱狂を生み出すものとは何だろう。その答は本書には書かれていない。それは、戦争が始まる前の時代にさかのぼって、見つけなければならないのだろう。本書と並行して同じ著者の「昭和史1926-1945」「昭和史1945-1987 戦後編」を読んでいる。