ルパート・サンダース監督「Ghost in the Shell」

劇場版アニメをロードショーで観たのが僕のささやかな自慢である。

アニメの原作が実写化されると失望することが多いが、本作品はとてもよかった。押井守監督の「Ghost in the Shell」の世界観、ストーリーをかなり忠実に実写化している。ストーリーやエピソードはもっと大胆にアレンジしてもいいと思うのだが、ルバート・サンダース監督は、劇場アニメ版の世界を丁寧にたどっていく。オープニングのアンドロイド誕生、冒頭の高層ビル屋上からのダイブ。「ブレードランナー」にルーツを持つ、荒廃した中華的都市の風景。偽の記憶を移植された哀れな男。水没した広場での光学迷彩をまとった少佐とテロリストの格闘。ラスト近く、多脚戦車との戦闘から、ハッカーとの接続、ヘリからの狙撃まで…。劇場アニメ版のエピソードを忠実に辿りながら、別の物語を展開していく。それは押井版、士郎正宗の原作には無かった、少佐が自らの過去を探す物語だ。

過去の自分探しの物語になってしまったのは残念。

少佐はかつて難民の一人であり、テロリストに襲われ、家族も、自らの身体も失われたとされているが、それは偽の記憶であり、実は草薙素子という日本人女性であることが明らかになってくる。このストーリーの改変は、個人的にはNGで、劇場アニメ版(コミック版も)のほうがよかった。ラストで少佐は、天才ハッカー「クゼ」との融合を拒否して、草薙素子として生きていこうとする。それはわかりやすく、共感しやすいストーリーかもしれないが、僕は、劇場アニメ版のように、ネット上に誕生した「生命体」と素子が融合して、新しい存在へと進化していくほうがずっといいと思う。桃井かおりが演じる、素子の母親が登場してきた時は思わずずっこけた。この改変によって、作品は安易なヒューマンドラマになってしまったと思う。劇場アニメが描こうとした「身体を失ったサイボーグの悲しみ」と、「人間の世界を捨ててネット上の生命体へと進化する人類の未来」がどこかへ行ってしまったのが残念だ。

とはいえ大満足!

個人的な難点を書いたが、100点満点に近い出来上がりに大満足なのだ。多脚戦車が登場した時は、涙が出そうになった。(ただし、戦車のデザイン、戦闘シーンのクールさ、迫力では、劇場アニメ版のほうがずっと勝っている。)その直後、「ヘリからの狙撃シーン」まで出てきた時は、椅子から転げ落ちそうになった。アニメ版では、スナイパーに対して「心肺機能の調整に入れ」という指令が出るのだが、そんなディテールまできっちり描いてほしかった。実写版でいちばん気に入ったのは「ゲイシャロボット」の造形かな。確かテレビ版のStand Alone Complexには出てきたと思うが、花魁風のコスチュームで登場し、襲撃を受けると、蜘蛛のように動いて壁を登っていく場面は素敵だ。多脚戦車やタチコマなど、蜘蛛や甲殻類から連想したと思われるロボットの造形は、原作者がこだわるイメージでもある。

興行的には、日本では成功しているようだが、米国ではそれほどでもないという。素子役をスカーレット・ヨハンセンという白人女優が演じたことが不振の理由だというが本当だろうか。