水野和夫「閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済」(新潮新書)

尊敬する友人、POPでロジカルでパワフルな頭脳の原さんのおすすめ。経済の本は、読み始めても途中で挫折することがほとんどだが、この本は、ほぼいっき読み。いやー、面白かった。なんか魔法みたいだ。概要をここに要約して、ちゃんと解説したいところだが、僕の能力では到底無理。なので、以下、本書を読んだ感想を記す。

僕たちは「資本主義と近代システムの終焉」の時代を生きている。

 800年続いた資本主義が、500年続いた近代システムとともに終わりを迎えつつある。それにともなって世界は「グローバル化」から「閉じた帝国」の時代に向かっている。というのが著者の主張だ。現在、世界で起きている様々な事象のほとんどが、これによって説明できるという。トランプ政権の誕生、イギリスのEU離脱、テロの多発、中国、ロシアの覇権主義、日本のマイナス金利、日銀の敗北、東芝粉飾決算、安倍政権の暴走…。実際に、著者は、本書の中で、資本主義の歴史から説き起こし、それらの事象をたたみかけるように当てはめていく。その考察は、目からウロコが落ちるというか、痛快だ。しかし、日本が「これから選び取るべき道」の話になると、著者自身もわからないという。しかしそのヒントはいくつか提示されている。

「より近く、よりゆっくり、より寛容に」

そのひとつが、近代システムの「より遠く、より速く、より合理的に」という理念を反転し、「より近く、よりゆっくり、より寛容に」とすることだという。さらに巨額債務の解消、エネルギーの自給化、地方分権化の推進が不可欠であるという。また、すでに行き詰まりが見えているアメリカの金融帝国への従属からも脱すべきだという。著者は、日本はどうすべきかと問われた時に「EUに毎年加盟申請をする」と真顔で答えるという。その理由は、EUだけが「ポスト近代」を模索しているからだという。
著者自身もわからないという「日本が進むべき道」。しかし、ここに提示された方向は、最近になって出てきた日本や世界の新しいトレンドとも一致していると感じる。「里山資本主義」のコンセプトや山崎亮などが提唱している地域コミュニティの再生、さらに地産地消を旨とするスローフード運動なども、同じ方向に向かっていると感じる。しかし、そのムーブメントはまだまだ小さく、少数派でしかない。本書の意義は、そんな少数派のムーブメントに、歴史的/科学的知見に基づいた理論的な裏付けを与えることかもしれない。僕たちが自明のものだと思ってきた資本主義も、近代システムも、国民国家も、決して永久不変のものではなく、千年に満たない歴史しか持たない、不完全なシステムであったことを本書は教えてくれる。本書を読み終えての最大の収穫は、僕たちが今後進むべき方向が定まったことかもしれない。子供たちのために、僕たちが今できることは、ポスト資本主義、ポスト近代の「解」を模索し、少しでも良い形で彼らに手渡すことではないか。残念ながら、この国の政権は、もうすぐ終わろうとしている資本主義と近代システムの亡霊に取り憑かれたように、成長やグローバリズムの路線を突っ走ろうとしている。出てこい、「ポスト資本主義」「&ポスト近代」を目指す政治家たち。