2013年3月から2014年3月まで朝日新聞に連載していた新聞小説。毎日コマ切れに読まされる新聞小説は好きではないが、本書は連載中から気になっていて、発売と同時に購入。不思議なことに宮部みゆきの小説を読むのは本書が初めて。著者の作品が別に嫌いというわけではなく「縁」が無かったというしかない。500ページを超える大作だが、2日でいっきに読んだ。エンターテインメントとしては文句なしの大作。
江戸時代の東北の小藩が舞台のモンスターパニック。
さすが、ミステリーから時代小説、SF、ファンタジーまでを書き分けられる人気作家だけあって、ストーリーテリングが巧みで、冒頭から、ぐいぐい引き込んでいく。元禄時代、東北の小さな藩で、国境に近い山奥の村が、一夜にして全滅する。村を襲ったのは何者なのか?山犬の群れか、飢えた熊か。それとも隣の藩による侵 入なのか…。隣合う二つの藩の対立、お家騒動、風土病騒動など、様々な問題を抱える土地に、その怪物は出現する。人物もたくさん出てくるが、それぞれしっかり描き分けられている。一番気になっていた怪物も、まあ満足できる出来映え。ネタばれになるので、これ以上は書かない が、冒頭から、ラストまで、まったく退屈せずにいっきに読める。小説であれ、映画であれ、モンスターパニック物には「定石」があり、本書も、その定石に従っているように見える。怪物の来襲。絶望的な闘い。様々な謎。明らかになる真実。登場人物たちと怪物の意外な正体、そしてクライマックスへ…。欲をいえば、この定石をいかに外すかが、この手の小説を読む醍醐味といえなくもないが、そこはちょっと不満。
怪物の正体。
本書を読みながら、ジブリの「もののけ姫」を思い出していた。東北の山の民の村を怪物(タタリ神)が襲うところから始まるファンタジーアニメだが、昔の日本+モンスターという設定は近いと思う。身体を覆う体毛が全部ヘビになっているという造形はショッキングでオリジナリティがあった。それに比べると、本書の怪物の造形は平凡に思える。また「神=自然」と対立する「人間=文明」という現代的な構図から物語をつむぎ出してしていく手法も新鮮だった。本書には、ある特殊な能力を持った一族が出てくるのだが、物語のすべてが、そこから始まっているのが、ありがちな伝奇ロマンかファンタジー風でちょっと残念な感じ。
SFでもよかった。
グレゴリー・ベンフォードのSF「時の迷宮」は、古代ギリシアの遺跡から発見された、特殊な素粒子を閉じ込めた箱をめぐる話だが、その素粒子は強力なX線を放出して人々に害を及ぼす危険なもので、古代の人々は「ミノタウルス」として迷宮の中に封印したという。本書においても、怪物を、呪術や魔術によって生み出されたものではなく、生物学的なアイデアとして捉えるか、レムの「ソラリス」のような、人間とは隔絶した存在(生命体だが、人間とあまりにかけ離れていて、コミュニケートできない)として捉えたほうが、面白かったのに。