数ヶ月に一度、歯科で歯の掃除をしてもらう。たっぷり1時間はかかるし、寝ることもできないので、時間つぶしにマイベスト◯◯◯を選んでみる。今回は「B級SF映画」。B級じゃないSF映画は、すぐにベスト5ぐらいまでは選べるが、B級となると、ちょっと難しくなる。色々思い浮かべている内に、次の4作に決定。次に作品ごとに選んで理由をあげてみる。
「スキャナーズ」1981年 デビット・クローネンバーグ監督
「遊星から物体X」1982年 ジョン・カーペンター監督
「スペースバンパイア」1985年 トビー・フーパー監督
「ヒドゥン」1987年 ジャック・ショルダー監督
「スキャナーズ」1981年 デビット・クローネンバーグ監督
B級と呼べるかどうか、自分の中では、B級ではないベストの10位に入る傑作だと思うが、どこかマイナーな印象が漂う作品なので、今回はB級に。カナダ映画である。クローネンバーグは「ビデオドローム」「戦慄の絆」「フライ」「裸のランチ」など、カルトといってもいいようなラディカルな映画で知られるが、「スキャナーズ」はかなりエンターティンメントに徹したSF映画だ。一言で言うと超能力者たちの戦いを描いた映画。出演は、ジェニファーオニールがメジャーどころ、「プリズナーNo.6」のパトリック・マクグーハンが出ているのがうれしい。公開当時話題になったのは、超能力者が、公開実験のステージで、他人の脳を操って、破裂させてしまうシーン。このシーンは大友克洋の「童夢」「AIKRA」、マンガ「北斗の拳」などにも影響を与えている。映画の見所は、様々な超能力の描き方。テレパシーの能力が高すぎて、他人の心の声が侵入して、自分の思考ができない主人公。超能力者に操られると、鼻血が出たり、血管が浮き上って膨れ上がる描写など、後のサイキック映画やアニメに大きな影響を与えた。ストーリーや設定も、SFファンの鑑賞に耐えるほど細部まで考え抜かれたもので、当時、そこまで凝ったSF映画は他になかった。DVDでは駄作の2と3がセットになったDVDボックスしか発売されておらず購入していない。BDで出てくれないかなあ。
「遊星から物体X」1982年 ジョン・カーペンター監督
南極基地を舞台にしたエイリアンSF。1951年公開のハワードホークス制作の「遊星よりの物体X」のリメイクとされるが、実際には原作となったジョン・W・キャンベルのSF作品「影がゆく」を忠実に映画化した作品である。あらすじは、南極のアメリカ基地に犬に取り憑いたエイリアンが侵入する。エイリアンは次々に隊員を襲い、取り込んでいく。エイリアンは、取り込んだ人間や犬の形態を合体させたようなグロテスクな生物に変貌していゆく。この映画の見所は、当時22歳という若さでSFXを手がけた特殊メイクアーティストのロブ・ボッティンの創造したエイリアンの造形だ。犬の頭部が4つに割れ、中から全く違う生命体が現れ、鞭のような触肢を伸ばして犬小屋の中の他の犬を襲いはじめる。心停止になった隊員を蘇生しようと心臓マッサージをしていた医師の両手が、ぱっくり開いた胸に呑み込まれ、その開いた胸には鋭い歯が生えていて、医師の両手をすぱっと噛み切る。死体の頭部が切り落とされると、逆さまになった頭部からカニのような足が生えてきて、こそこそと歩き去ろうとする…。あまりにグロテスクな造形の連続は、思わず笑ってしまうほどだ。このエイリアンの造形だけで観客はノックアウトされてしまう。このSFXは、その後のエイリアンの造形に大きな影響を与えた。南極基地という閉ざされた環境で、隊員に取り憑いたエイリアンをあばき出すという息詰まる密室劇も見物。
「スペースバンパイア」1985年 トビー・フーパー監督
原作がある。「アウトサイダー」等で知られるコリン・ウィルソンの「宇宙のバンパイア」だ。ハレー彗星が地球に接近し、探検隊が派遣される。彗星の中心近くに謎の宇宙船が発見され、中に人間の男2名と女1名が眠るカプセルが発見される。この遺体を持ち帰ろうとした宇宙船との連絡が途絶え、救援に向かった救援隊は、内部が焼け焦げた宇宙船と無傷のカプセルを発見し、地上に持ち帰った。ロンドンの宇宙センターに運びこまれた3体の内、女性が急に起き上がり、警備員の生気を吸いとって逃亡する。この作品の見所は、この全裸の女性バンパイア。マチルダ・メイというフランスの女優が演じたバンパイアの美貌。そのヌードは、公開当時、男性の観客のハートを鷲づかみにした。自分も、ロードショウでは彼女も胸ばかり見てた気がする。ストーリーは、わりとご都合主義で、とっ散らかっていて、突っ込みどころ満載なのだが、突っ込むヒマを与えないほど、速いテンポで進んでいく。しかも、主人公である宇宙飛行士は、女バンパイアと、どこかでつながっているようであり、惹かれ合っているのだ。バンパイアに襲われた人間は、しばらくすると、今度は自らがバンパイアとなって他の人間を襲い始める。ロンドンは、バンパイアの街と化し、襲われた人間の生気が、ある教会に集められ、宇宙に送られていく。クライマックスでは、宇宙飛行士と女バンパイアが再会し、二人は再び愛しあおうとするが、宇宙飛行士は剣を隠し持ち…。バンパイアの急所を狙う…。細部の設定とかはいいかげんなところもあるのだが、異様なパワーでぐいぐい引っ張っていくところがB級の傑作っぽい。
「ヒドゥン」1987年 ジャック・ショルダー監督
あまり書かれていないが、ハル・クレメントの名作「20億の針」がヒントになっていることは間違いないだろう。宇宙から2種2名のエイリアンが地球にやってきて人類の中に紛れ込む。一方は邪悪な性格を持ち、もう一方は善なる性格を持ち前者を追いかけてきたのだ。両者共、人間を含む生物に取り憑いて、操ることができる。という設定は「20億の針」そのもの。20億というのは小説が書かれた50年代の地球の人口だ。要するに20億人の人類の中から相手を見つけなければならない、という話だ。この映画がB級である理由は、その設定の安易さにある。悪いエイリアンに乗っ取られた人間は何とロックとフェラーリが大好きになり、殺人も平気で犯してしまう、という設定が、素敵に乱暴かつチープ。十数人の人を殺し、フェラーリを盗んだりするものだから、目立つこと、この上なく、簡単に追跡者に見つかってしまい、追い詰められていく。それでも、寄生する宿主を次々に乗り換え、かろうじて逃げ延びていく。その展開がスピーディーで痛快だ。主演は、良いエイリアンが取り憑いたFBIの捜査官をカイル・マクラクラン。この映画の後、「ツイン・ピークス」でもFBIの捜査官役を演じた。彼と組むのがロス市警のベテラン刑事。謎の連続殺人事件を追って、エイリアンたちと出会う。「遊星からの物体X」が南極基地という閉ざされた空間での異星人狩りだとすると、こちらはロスの街を舞台にした追跡。エイリアンが次々に乗り移っていく宿主も、温厚な紳士から、重病人、ストリッパー、犬、刑事、警察署長とバラエティに富んでおり楽しめる。特にストリッパー、ブレンダ・リー役のクラウディア・クリスチャンは、とてもセクシー。露出度の高いコスチュームで逃亡しながらマシンガンを乱射する姿にノックアウトされたファンも多かった。もちろん自分も、その一人。彼女は、この1作で、SF映画ファンのアイドルとなった。SF映画のヒロイン投票をすると、彼女を選ぶファンが必ず出てくるほど。設定は安易だが、映画そのものは、ていねいに作られており、破綻がない。主人公の刑事の妻や娘との交流。や同僚の刑事とのつきあい、地球の文化に慣れていない善玉エイリアンのたどたどしい会話など、細部まで手を抜いていない。この映画が成功しているのはハル・クレメントの「20億の針」に負うところが大きい。