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原田曜平「ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体」

「ヤンキーブーム」といえば、今はこちらを指すんだろうな。著者は博報堂ブランドデザイン 若者研究所のマーケティングアナリスト。2013年には消費しない若者たちの気質をとらえた「さとり世代」という著書を出版している。著者によると、かつての典型的な「ヤンキー」 が減少し、代わって「マイルドヤンキー」と著者が名づけた層が新しい消費者層、保守層として注目を集めているという。
マイルドヤンキーとは。
本書によると「郊外や地方都市に住んでいる」「地元志向が非常に強い(半径5km以内から出たくない)」「上昇志向が低い」「低学歴で低収入」「クルマ(特にミニバン)が好き」「喫煙率・飲酒率が高い」「イオンなどの大型ショッピングモールが好き」「小中学時代からの友人とつきあう」「EXILEが好き」「家族、仲間の絆を大切にする」「礼儀正しく、優しい」などの特徴がある。本書は135人のマイルドヤンキーたちへの調査を元に書かれたという。
マイルドヤンキー論への批判。
ネット上では、著者の「マイルドヤンキー論」に対して批判的な意見が飛び交っている。作家の堀田純司さんは「この層って、ひょっとして日本の平常運転ではないの?東京視点が隠然たる『日本のリアル』を勝手に見失い、勝手に再発見しただけ」と違和感を表明している。その他、「以前は下流とかB層とか言われていた層に、違う名前をつけただけじゃないの」という意見など…。しかし僕は、これらの意見もちょっと違うんじゃないかと感じている。本書に書かれているように、かつてのヤンキーがマイルドヤンキーに変化していったのではなく、以前から存在していたサイレントメジャー層に、浸透力の強いヤンキー文化が広がっていったというのが正しい認識ではないか。ただ、それを批判者たちが言うように「日本の平常運転」や「日本のリアル」というように楽観的にとらえることも違っていると思う。本書に書かれたマイルドヤンキー層は、以前の下流志向やB層とは明らかに違う変化が現れていると感じる。
うすら寒いライフスタイル。最後の消費者。
本書に書かれたマイルドヤンキーたちのインタビューやレポートを読んでいると、何だかうすら寒い気持ちに襲われる。半径5kmのエリアから出たがらず、このネットワーク時代に小中時代の幼なじみとしか付き合わない。イオンのショッピングセンターが夢のような空間だという。地元志向といいながら、郷土愛を持っているわけではなく、地域のために役に立つことをするわけでもない…。いわば「地域内ひきこもり」とでも言いたいようなライフスタイルだ。また、健康志向でも、エコ志向でもなく、新しく何かを生み出すこともなく、ただ消費するだけの内向的なライフスタイル。しかも、その消費行動は、企業やメディアの戦略にしっかりコントロールされている…。こんな消費者をほんとうに「消費の主役、新保守層」などと呼ぶべきなのか?僕には、彼らが、長引く不況と消費社会の終末期に出てきた「消費者のなれの果て:最後の消費者」のように思える。いっとき話題になった「嫌消費世代」のほうが、拡大する一方の消費社会にNOを突きつけることで、新しい生き方や価値観の誕生を予感させるものだった。しかし「マイルドヤンキー」には、そのような未来への萌芽を見ることはできない。いつの時代にもサイレントメジャーと呼ばれる層は存在した。かつての「庶民」「大衆」という言葉には、高度成長期特有の希望やエネルギーが感じられた。しかし本書が描く「マイルドヤンキー」には、自分の夢や生活を自ら小さく限定していこうとする、矮小な消費者の姿しか見えてこない。いまや日本中どこへ行っても見られる、都市郊外や地方のロードサイドの風景。中古車屋、コンビニ、ファミレス、パチスロユニクロスーパー銭湯、ホームセンター、そして大型ショッピングモール…。本書を読み終えると、高村薫が小説「冷血」で描こうとした16号線沿線の、荒涼とした風景を思い出してしまう。