日本会議というの組織のことを知り、その活動の実態が明らかになって来ると、強い悔恨の気持ちにとらわれてしまう。70年代以来、僕らが政治に興味を失い、背を向けるようになってしまったこと。そして、その後、僕らが大量生産大量消費、経済至上主義にどっぷり浸かり、浮かれている間も、「彼ら」は地道な「運動」を延々と続けてきたのだ。その努力が今、「憲法改正」として身を結ぼうとしている。僕らは、そんな組織が存在することさえ、ごく最近まで気づかなかった。彼らは、姿を見せずに、辛抱強く、この国の中枢を侵食し続けてきたのだ。彼らが目指す理想は、ほとんど冗談としか思えないが、彼らは本気で、憲法を変え、日本を変えようとしている。その「Xデイ」は参院選だ。日本会議の実態や活動が明らかになり、安倍政権との結びつきがもっと暴露されれば、彼らの神通力は失われるだろう。菅野完「日本会議の研究」や本書は、参院選にかろうじて間に合った。期待している青木理「日本会議の正体」は参院選の翌日発売である。
本書の要約をするのはやめておこう。本書は、日本会議の成り立ち、実態、その活動を簡潔にまとめてくれている。100ページ余りの本なので、半日で読めるのはありがたい。彼らの中枢が、狂信的な宗教団体であること。運動ごとに様々なフロント組織を立ち上げ、彼ら自身は、その影に隠れて、容易に正体がわからなかったこと…。さらに新聞・テレビなどのメディアが取り上げるには、彼らの活動は地味でスパンが長すぎ、学者が研究対象とするには、歴史が短く、新しすぎるのだ。結局、菅野完や本書の著者、青木理など、フリーのジャーナリストが取り上げるしかなかったのだ。
大阪における育鵬社教科書の大量採択。
本書の読みどころの一つが2015年の大阪における教科書の事件だろう。憲法改正とともに日本会議が進める活動のもうひとつの柱が教育への介入である。中でも新しい史観に基づく教科書の発行と普及に彼らは大きな力を注いできた。2007年に、フジ・メディア・ホールディングスの100%出資で誕生した育鵬社は、日本会議の教科書を出版するだけの目的で設立された。著者は、育鵬社の教科書が、大日本帝国憲法を讃え、日本国憲法を「GHQによる押し付け」であるとして認めていない等の内容を紹介した後、2015年に大阪市と東大阪市で、育鵬社の教科書が大量採択された経緯を紹介する。その詳しい内容は紹介しないが、大阪市内で開かれた教科書展示会に、大阪の宗教団体が大量の信者を動員して市民アンケートに記入。採択結果に影響を及ぼし、大阪市、東大阪市での大量採択が決まったというもの。その強引であくどいやりかたは、日本会議の一面を現しているという。今回の参院選から始まった選挙権年齢の18歳への引き下げも、年齢が若くなるほど、憲法改正に対する抵抗感が少なくなるというデータから、日本会議系が仕掛けた公算が高いという。