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かわぐちかいじ「空母いぶき1/2」

「これはもう空母じゃないか」

海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」が就役した時、「おいおい、これは空母そのものではないか」と思った。ヘリコプター搭載空母というのだろうが、ちょっと改造すれば戦闘機を搭載できるのではないかと思った。本書に出てくる「空母いぶき」は、まさに「いずも」に改良を加え、スキーのジャンプ台のような滑走台を装備し、垂直離着陸機であるF35BJを20機搭載するという設定だ。そして本書が描くのは、尖閣諸島をめぐって日中が衝突するという物語なのだ。作者は「沈黙の艦隊」「ジバング」のかわぐちかいじ。コミックであるが、本書が描き出す事態は生々しく恐ろしい。

尖閣諸島問題。

発端は、尖閣諸島の南小島に中国の漁船の遭難を装った3名の工作員が上陸し、海保がヘリを派遣して救援に向かうところから始まる。3名は日本の海保の救援を拒否し、中国による救援を要求する。中国は、海警局艦船だけでなく、空母遼寧」を含む艦隊を尖閣諸島に向かわせた。日本はこれに対抗して海自の「あたご」「てるづき」を派遣。日本の領海に侵入してきた中国海警局の艦を阻止しようとした日本の海保の艦が中国の艦と衝突する。一触即発の事態の中、空母遼寧」を飛び立った戦闘機「殲15」が「あたご」に向かって対艦ミサイルを発射。ミサイルは「あたご」をかすめて海中に落下する。レーダー照射によるロックオンのない威嚇攻撃だった。自衛隊中国軍の全面衝突を恐れた日本の首相は、遭難した中国漁民の引き渡しを決意する。その時、インド洋にあったアメリカの第7艦隊は、中国との対立を恐れて、動かない。今回の衝突は、中国がアメリカの出方を探るための作戦であったと推測する首相は、建造を進めていた「ペガソス計画」を急がせる。この「ペガソス計画」こそが「空母いぶき」を核とする艦隊の創設であった。

日中戦争へ。

事件の1年後、「いぶき」は第5艦隊として就役する。その演習航海に出ている時に、中国軍が攻撃を開始する。空母「広東」の艦載機「殲20」が与那国島宮古島のレーダーサイトを破壊。さらに大規模な空挺部隊与那国島に降下して島を制圧、与那国島を警備する自衛隊150人が捕虜となり、島民約3000名が支配下に置かれる。また中国海軍揚陸艦「長白山」から発進したホバークラフトが多数の海兵隊尖閣諸島魚釣島、南北小島に上陸させ、中国国旗を掲げる。さらに同様の作戦を多良間島でも展開していた。「いぶき」を含む第5艦隊は急遽、尖閣諸島へ向かう…。途中、艦隊の行く手を阻もうとする2隻の中国軍潜水艦に遭遇。艦隊は、魚雷発射管を開いて威嚇する中国潜水艦に屈して迂回することなく、尖閣諸島に向かう。中国政府は、これ以上戦線を拡大する意志がなく、日本との交渉を望んでいることを発表。その頃、多良間島を偵察していた自衛隊機が、中国の戦闘機に撃墜される。日本政府は閣議を開き、自衛隊の創設以来初めての「防衛出動」を閣議決定する…。

ありえない話ではない。

海戦小説というのか、第二次世界大戦以降の、海を舞台にした戦争の物語をたくさん読んできた。その中には「もしも日中が戦えば」というような架空の戦争の物語もあるが、開戦の理由に説得力がなく、その分安心して読むことができた。しかし、本書は違っている。南沙諸島での中国のふるまいを見ていると、本書が描くようなリスクは、十分ありえると感じられる。日本側の対応も、今のところ、安倍政権なら喜びそうな強気の展開である。このような事態になった時、日本はどう対応すればいいのだろう。平和主義に徹して、あくまで外交で問題を解決すべきなのか?最低限の武力で、中国を追い払うべきなのか?僕には明確な答が出せそうにない。戦後、歴代の政権は、尖閣諸島竹島の問題を曖昧なままの状態に留めおいてきたという。2012年に日本政府が尖閣諸島を国内に住む地権者から購入し、国有化した時から問題が深刻化したという人もいる。いずれにせよ本書は、日本が抱える安全保障や戦争の問題をシビアにえぐり出そうとしている。単行本は、まだ2巻しか発売されておらず、本格的な日中衝突は始まっていないが、ちょっと目が離せない。