原 章二「マラソン100回の知恵」サブフォーをめざす市民ランナーへ

マラソン関係、ランニング関係の本は、たくさん読んだが、市民ランナーの入門書としてはベストではないかと思う。

その理由のひとつが100回完走したという経験から来るノウハウの数々。フル100回完走というのは半端ではない。毎月マラソンに出たとしても9年かかる。年に5回としたら20年である。その体験から語られる言葉は、生々しく、重い。まだフルを2回しか走ったことがない自分などは、初心者も初心者。人に教えるなんてとんでもない、という感じ。マラソンは、ほんとうに奥が深い。

もうひとつの理由が文章の力。
著者自身が哲学の研究者であり、本も何冊か書いている。だから文章がとても平易で明晰だ。行間から滲み出る著者の人柄にも、好感が持てる。マラソンの入門書としてではなく、マラソンエッセイとして読んでも楽しめるのである。他にランニングについて書かれた本の中で、読み物として楽しく読めたのは村上春樹の「走ることについて語るときに僕の語ること」甘粕りり子の「42歳の42.1kmーロード・トゥ・ロンドン」ぐらい。

この本の中で特に参考になったのは、最初に走るコースを「自宅を通る2キロのコースを設定すること」とか、「ウエストポーチを持つ必要がない」とか、フルの終盤、足が動かなくなった時の対処法とかは、フルを何度も走った著者にしか書けない、きめ細かいノウハウの数々。フルを2回しか走ったことがないビギナーランナーにとっては、まだまだ知らないことが多い。サブフォー(4時間切り)を卒業と定義し、そこから先の挑戦を卒業後の進路と捉えていることも市民ランナーの感覚として納得できる。マラソンの楽しさと奥深さを教えてくれるいい本だ。

フルを2回完走して、次はどうしようかなあと、ちょっと迷ってた自分も、この本を読んで目標が持てた。
これからめざすべきは「サブフォー」だ。と。