ナレッジシアターこけら落とし公演「ロボット版銀河鉄道の夜」


4月にオープンしたグランフロント大阪の核施設「ナレッジキャピタル」内にある『ナレッジシアター」のこけら落とし公演。大阪大学のロボット演劇プロジェクトと吉本興行によるコラボ企画。作/演出は平田オリザ。登場するロボットはATRのロボビーR3。ロボビーは10年以上前に大阪のロボットイベントで初遭遇。近づいていくと、いきなりハグされ「だーいすきー」と言われた。これが強烈なロボット体験となり、のちのロボット観に強い影響を及ぼしたと思う。10年来のロボ友を誘って鑑賞することにした。
電子書籍版「銀河鉄道の夜」を再読。
公演の前に原作の「銀河鉄道の夜」をおさらいしておこうとKindle版で再読する。宮沢賢治はあまり好きな作家ではないが、代表作はずいぶん昔ひと通り読んでいる。「銀河〜」も読んでいるはずだが、内容はほとんど覚えていない。主人公が銀河鉄道に乗って親友と旅をする話で、途中様々な駅や乗客に出会う、というくらいしか覚えていない。
夢のリアリティ。
昔読んだ時の印象はほとんど覚えていないが、いま読むとけっこう良い。銀河鉄道の旅は、主人公ジョバンニが見る夢の中の世界なのだが、この「夢」にとてもリアリティがある。「夢」を作品で表現するのはとても難しく、多くの文学作品が失敗している。夢はこわれやすく、死にやすい。作家が言葉にした途端、夢が持っているあの不思議な感覚が失われてしまう。言いようの無いせつなさと疎外感、不条理な連想と奇妙なディテール、そして浮遊感…。賢治の独特の言葉は、そのような夢のリアリティを殺さない。「夢のリアリティ」。これだけでも「銀河鉄道の夜」を読む意味があると思った。
シンプルな舞台装置。
最前列の席だった。照明を落とされた舞台はシンプルだ。ホリゾントには星空と街の映像を投射されている。舞台の上に赤色LEDが灯った装置が5つ置かれている。舞台の四隅と中央の奥。ロボットの位置決めか何かのためのセンサーだろうか。インドネシアガムランのような音楽が流れている。音楽がひときわ高まり、舞台が始まる。
ロボットが出てくる意味。
1時間ほどで公演が終わった。劇場を出て最初に友人に発したこ言葉は「ひどい」。脚本は原作のストーリーをわりと忠実になぞっている。冒頭の教室の場面からはじまり、放課後の場面、そしてジョバンニの夢の中へ…。セリフもかなり端折ってはいるが忠実に流れていく。問題はロボット。最初からカンパネルラ役で登場するが、なぜロボットなのか、意味がわからない。見終わっても、まだわからない。カンパネルラを人間の役者が演じるのと何がどう変わってくるのか、わからない。友人に言わせると、「ロボットが人間の役を演じられる。それだけでスゴいことなんです。この劇にそれ以上のことを期待してはいけないんです」ということらしい。そうだろうか。ロボットが出てくるなら、そこにはちゃんとした意味づけが欲しい。幼稚園とかの大きな積み木を並べたようなシンプルな舞台装置。4人の女性の役者による、やたらと元気に走りまわる演出。ほんとうにこれが「ナレッジシアター」の「こけら落とし公演」なの?「夢のリアリティ」なんて、どこにも見えない。シナリオだって、もっとやりようがあったと思う。