NHKスペシャル「激変する世界ビジネス “脱炭素革命”の衝撃」

石油の国で、世界最大の太陽光発電所を建設。

冒頭から、いきなり衝撃が来る。世界でも有数の産油国であるアラブ首長国連邦アブダビで建設が進む世界最大の太陽光発電所。太陽光パネル300万枚を使用し、原発1基に相当するというこの発電所から生まれる電力のコストは、日本の火力発電所の1/5だという。次の場面は、今年11月にドイツのボンで開かれたCOP23の模様。米国の金融大手が揃って「再生可能エネルギービジネス」への投資を拡大している現状を伝える。パリ協定からの脱退を宣言したアメリカからも、有力な政治家や大企業が参加し、「トランプは、ここにはいないが、我々は、この場所に留まる。決して逃げない!」と声を上げる。コカコーラ、マイクロソフト、ウォルマートなど、大手企業が「脱炭素」に舵を切った経緯が語られる。そして中国も、習近平自らが「我々がエコ文明をリードする」と宣言。世界中で起きている脱炭素シフトの潮流を紹介したあと、番組は日本に目を向ける。日本からもリコーなど、環境経営をリードする企業が参加しているが、他国からは非難が集中する。日本政府は、アメリカと共同で世界中に高効率の火力発電所を建設しようとしているからだ。環境ビジネスを推進するコンサルタントも、参加した日本企業の担当者に「日本には、優れた技術も、資金も、人材もあるのに、なぜ19世紀のエネルギーにこだわるのだ。あなたたちのライバルである中国は、すでに未来に向かって方向転換を進めている。」と迫る。

温暖化による異常気象は、大きなリスクになっている。

アメリカの大手スーパー、ウォルマートの担当者は、最近、発生した巨大ハリケーンがウォルマートにも甚大な被害をもたらし、多くの損失が出たことを語る。店舗の屋上に太陽光発電を設置するなど、環境対策に取り組んだ結果、年間1000億円のコストを削減することができて、それはそのまま利益になったと誇らしげに語る。英国の保険会社アビバも、温暖化による異常気象は、保険会社にとって、将来的に大きなリスクになると予測。今後は、化石燃料に関わるビジネスからの投資を引き上げるという。日本の電源開発にも、脱炭素化を再三提案したが、受入れられず、投資の引き上げを行うという。

日本企業技術者の悔し涙。日本が遅れる理由。

COP23に参加した日本企業の会合に呼ばれた投資家の辛辣な言葉を聞いて、日本の建設会社が進める洋上風力発電の技術者が悔し涙を見せる。彼は十年にわたって、洋上風力発電のプロジェクトを進めてきたが、実際に建設されたのは長崎の五島列島の1基のみ。まだ1円の利益を生み出していないという。番組は、日本で再生可能エネルギーへの転換が進まない事情を、全エネルギーの27.7%が再生可能エネルギーというドイツと比較する。ドイツでは太陽光、風力など、再生可能エネルギーを優先的に送電網に送ることができるのに対して、日本では、再生可能エネルギーの発電量が不安定なことや容量不足などを理由に既存の送電網に送ることができないという。

僕の感想。

グローバル資本主義が、本気で地球の環境のことを考えているかどうかは疑問だが、温暖化による異常気象の荒波が、ようやく彼らの足元を洗い始めたようだ。そして彼らの多くが「脱炭素」のほうにビジネスチャンスを見出しているのは明らかだ。番組の中で紹介されていた、日本が進めている「高効率の石炭火力発電所」の輸出は、現状では意味のある話なのかもしれない。しかし僕には、原発の再稼動にこだわる日本の電力ファミリーが苦し紛れに打ち出した戦略のようにしか見えない。ほんの一部の人々の利権を守るために、日本は、世界の潮流から背を向けようとしている。3.11のあと、日本は、脱炭素へ転換する絶好のチャンスを与えられた。しかし、結局、それを活かすことができなかった。NHKオンデマンドでも配信中。