マツダの「Be a driver.」キャンペーンに感じたこと。

気持ちはわかるけど、伝わらないだろうなあ。

前回のエントリーで、キャッチフレーズを覚えている広告としてRIZAPの「結果にコミットする」と日産の「やっちゃえ」を紹介したが、個人的に一番印象に残っているのはマツダの「Be a driver.」キャンペーンである。2013年に始まり、現在も続いている。最初に、この広告を目にした時、「気持ちはわかるけど、通じないだろうな」と思ったことを覚えている。マツダは、一貫して「走る歓び」を追求したクルマづくりを主張していて、以前から「zoom zoom」というスローガンを掲げてきた。「zoom zoom」とは、子供が自動車のオモチャを走らせて「ブーンブーン」という声を出すのと同じ意味であるという。英語圏ではこれでいいかもしれないが、日本では伝わらない言葉だった。「Be a driver.」は、同じ意図を持ちながらも、狙いはしっかりと伝わってくる。意図は伝わってくるのだが、考え方そのものが、今の時代からずれていないだろうかと感じたのである。

クルマ離れ。スポーツ車の低迷。

クルマを取り巻く環境は大きく変わってきている。若者のクルマ離れは進んでいて、「走り」を売り物にするスポーツタイプのクルマの人気は高くない。また、いまだにクルマに興味を持ち、購入意欲もあるといわれるマイルドヤンキーたちの関心も、仲間がワイワイ乗れるワンボックスタイプのワゴンに集中しているようだ。かつて「走るクルマ」に興味があった、もう少し上の世代も、いまやハイブリッド車など、エコカーを選ぶようになり、「走り」への関心は薄れてしまっている。今年のモーターショウでは「自動運転」が大きなテーマになった…。そんな時代に「Be a driver.」と訴えてもどれだけ届くんだろう、と思ったのである。広告は届かなければ、すぐに終わってしまう。たぶん1回きりのキャンペーンを打ったあとは、別の広告に変わっていくだろうなと思っていたのである。ところが2013年に始まったキャンペーンは、2014年も、継続し、現在も続いている。続いているだけでなく、なんだかどんどん拡大している感じ。「Be a driver.」の意味を拡大して「人生のドライバーになろう:自分の人生を自らの意志でドライブ(動かす)する人になろう」という広告に発展したり、テクノロジーやデザイン、クルマづくりの姿勢など、ブランディング広告にも使われるようになってきたのである。

マツダファンが増えている?

「そうはいっても、クルマを買う人に届いているかな」と効果を疑っていたが、偶然、知り合いに「マツダのクルマに買い換えた」「マツダのクルマに買い換えたい」「最近のマツダっていいよね。次はマツダにしようかな」という人が出てきたのである。経験上、自分の周辺で3人の人間が同じことを言いだしたら、それはかなりのブームになっている、と考えられる。「Be a draiver.」の広告が効果を上げているのだろうか?そういえば、最近のマツダのクルマには、ある種の統一されたイメージがある。どの車種も、ちょっとマッシブな筋肉質のデザインで、グラスハウスも低く、いかにも「走りそうな」イメージなのである。空力一辺倒の他社のデザインとは一線を画していると思う。今年の1月にNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」で観た、低燃費エンジンの開発ストーリーも好印象だった。現在、トヨタが「TNGA:TOYOTA NEW GLOBAL ARCHITECTURE」の開発ストーリーを豪華キャストで展開しているが、そのドキュメンタリー風なタッチが、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」に似ているような気がするのである。いままでマツダのクルマを一度も買ったことはないが、いつの間にか、自分の中のマツダのブランドイメージが良くなっていることに気づかされた。

モノづくり/ブランド/広告が一体となっているキャンペーン。

売上など、具体的な数字を調べたわけではないが、このキャンペーンは成功していると思う。成功の理由は、マツダのモノづくりとブランディング、そして広告キャンペーンが一致しているからではないかと思う。そして一番難しいのは、モノづくりとブランディングを一致させることである。モノづくりを軸にしてブランディングの方向を定めたら、今度はその軸をブレさせずに、モノづくりと、ファンづくりを推進していく。さとなおさんが言ってるようなコミュニケーションをマツダは実践し始めているのかもしれない。今年の東京モーターショウで見た、ロータリーエンジン搭載のスポーツカーの新しいコンセプト「RX-VISION」も、自動運転やエコカー中心だった業界のトレンドとは異なる方向をめざした、マツダ独自のエンスーなモノづくり-クルマづくりの姿勢をアピールするものだった。しばらくはマツダの動きを注目してみよう。