角幡唯介「雪男は向こうからやって来た」

「空白の5マイル」に続く作品。前作は、21世紀の地球に、未踏の秘境がまだ存在していたという驚き。そして、著者自身がその探検に挑むというリアリティ。探検は過酷を極め、著者は生死の境をさまよい、かろうじて生還したという事実。さらに、その秘境をめぐる探検の歴史を読み進む醍醐味…。著者自身による体験紀と、文献によるリサーチ、さらに関係者への丁寧な取材によるドキュメンタリーは、読み応えがあった。開高賞と大宅壮一賞をW受賞しただけのことはある。今回は秘境でなく「雪男」である。こちらのほうが後に出版されたが、時間的には「空白の5マイル」より前の2008年の話である。読み始めて、ぐいぐいと引き込まれ、2日で読了。面白かった。「空白の5マイル」と同じように、著者が雪男捜査隊としてヒマラヤに遠征する話と雪男目撃の歴史が並行して語られていく。自分は、別に「雪男」がいるかどうかにほとんど興味は無いが、読んでいるうちに「なんかいるかもなあ」と思えてくる。それにしても日本の有名な登山家で「雪男」の目撃者が多いのには驚かされる。そして一度でも見てしまうと、多くの男たちが雪男にとりつかれてしまい、そのために命を落とした者さえいる。60日に及ぶ今回の捜査は、雪男の足跡を撮影したのみで終わるが、著者は日本に帰らず、たった一人で現地に残って、雪男の撮影を試みる…。読み終えて、不思議な感覚が残った。いったい「雪男」とは何なのだろう。現地のシェルパたちによると、雪男は一部の幸運な人の前にだけ姿を現すそうだ。雪男は、見える人にしか見えない。なんだかUFOみたいな、精霊みたいな存在なのかかもしれない。著者は果たして雪男を目撃・撮影できたのか…。