広瀬隆「FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン」

著者には申し訳ないが、この十数年ほど、著者の本から遠ざかっている。「東京に原発を」や「危険な話」など、80年台にはよく読んだが、陰謀史観というのか、過激すぎる主張についていけなくなったというのが正直なところ。そのせいか、今度の「原発本いっき読み」では、一番最後になった。著者は、原発反対派の最右翼というのか最左翼というのか、筋金入りの反対派である。政府や東電の発表すべてを疑ってかかる、その姿勢は徹底している。例えば、今回の震災のマグニチュード9.0という数字は果たして真実なのか、と疑う。気象庁は、当初8.4と発表し、その後、8.8に修正、さらに最終的に9.0とした。著者は知り合いの地震学者島村英紀の「今の地震は、気象庁が勝手にマグニチュードの物差しを変えてしまったから、こんなとんでもない数字になったのだ」という意見を紹介する。何のために気象庁は、そんなことをしたのか?それは今回の地震が1000年に一度起こるかどうかの「想定外の大地震」であったと主張できるからだという。想定外であれば政府も東電も、原発推進派も、責任を逃れることができるからだ…。このような著者の主張は、正しいかどうかは自分には判断がつかない。しかし、何事も疑ってかかり、ちょっとした事にも陰謀や悪意を疑う著者の姿勢が、今回ばかりは頼もしく感じられたことも事実だ。本書は、当然のことながら東電をはじめとする電力会社も、原子力安全保安院も、政府も、そしてメディアも一切信用できないという立場で書かれている。関係者は、「犯罪者」、「大嘘つき」、「御用学者」、「御用メディア」と一刀両断される。しかし、福島原発の事故の経過の解説は、政府、東電、安全保安院の解説などより、よっぽど理解しやすく納得性も高いと思った。プルサーマルの危険性や、高速増殖炉もんじゅの無駄使い、六ヶ所村の再処理工場の話など、呆れるようなこわい話も、他の反対派の主張と共通するところがある。特に京大の小出裕章氏の主張とほぼ同じである。また「原発運転を再開しなければ、電力不足に陥る」という原発推進派の主張は、真っ赤なウソである、という主張も同じ論理だ。現在の電力で、原発の占める割合が高いのは、火力発電、水力発電をフル稼働させていないためで、それらがフル稼働すれば、電力ピークをカバーできるだけの電力を生み出せるという。ネットを探せば、著者のこの主張は間違っている、という意見もあり、どちらが正しいのかわからないのである。ただ自分としては、地震以来の政府や東電の対応、原発関係者の主張を見聞きしてきて、原発推進派の主張はまったく信用できなくなっているので、反対派の主張のほうがすんなり受け入れられる。またぞろ原発運転再開のの圧力が高まってきているが、東電や政府の隠蔽体質や住民軽視の対応、九電のやらせメール事件を見ていると、こんな体質の企業や政府が、こんなに危険なエネルギーを持ってはいけないのだと思った。菅首相が孤立無援の中で、ただ一人「脱・原発」を主張していることだけは強く支持している。