桜庭一樹『「伏」贋作・里見八犬伝』

2日で読了。退屈しなかったが、もの足りない。
NHKBSの「週刊ブックレビュー」の特集コーナーで紹介されていた作品。江戸の町に「伏」と呼ばれる化物が出没し、残虐の限りをつくし、江戸の人々を悩ませていた。伏の首には賞金がかけられている。そこに剣術の達人である兄を頼って一人の少女がやってくる。少女ながら凄腕の鉄砲猟師である。兄妹による「伏狩り」が始まる…。週刊ブックレビューの中で著者自身が「狩る者と狩られる者の関係を描きたかった」と語っており、その際に引き合いに出したのが、映画「ブレードランナー」における、アンドロイドたちとブレードランナーの関係、もうひとつはドラキュラとヘルシング教授の関係だ。その言語が面白かったので買ってしまった本。2日間で読了。どんな八犬伝になるか期待したが、八犬伝の、あの壮大な世界は、失われ、江戸を舞台にした妖怪ハンター絵巻になってしまっている。元の八犬伝と同じ名の人物は出てくるが、キャラクターや役割は大きく異なっている。何だか全体に「ちっちゃく」なってしまった感じ。馬琴の作品そのものを読んだことはなく、大昔にNHKの人形劇で見てたぐらいだが、その時のほうがずっと面白かった。人形のデザイン・制作が辻村ジュサブローだったこともあり、そのおどろおどろしさは、いまでも記憶に残っている。なぜ正義の八犬士たちをモンスターにしてしまったのだろう。主人公の猟師の少女と剣豪の兄は、江戸の「伏」を退治し、幕府公認の「伏狩り」となって江戸を出る。物語はまだ続きそうだ。「伝奇小説」は好きなカテゴリーのひとつだが、スケール感の点で小さくまとまってしまっている感じ。一気に読めて退屈はしなかったが、もの足りない。この著者の作品を初めて読んだ。恥ずかしい話だが、週刊ブックレビューを観るまで、てっきり男性の作家だと思いこんでいた。ごめんなさい。