オガワカズヒロ「ソーシャルメディア維新」フェイスブックが塗り替えるインターネット勢力図

今年読んだIT関連の本の中で、後半は、最も重要な本だと思う。
前半が、佐々木俊尚氏の「電子書籍の衝撃」
http://d.hatena.ne.jp/nightlander/20100426
だとすれば、後半はほぼ間違いなく本書だろう。「本に書かれていることなんて、もう過去のことだ」という人がいるが、今、インターネットやメディアを取り巻く状況の全貌を、ここまで把握できている人が果たしてどれだけいるだろうか。特にソーシャルメディアの重要性は、多くの人が主張しているが、いまひとつ説得力がない。個人的にも、フェイスブックに登録したものの、なかなか使いこなせず、しかし何かにつけて話題に出てくるので、一度きちんと本で読んでみようと(対応の方法がアナログだが…)買った本。フェイスブックの使い方とかのノウハウ本ではなく、フェイスブックに代表されるソーシャルメディアがインターネットの世界をどう変えていくのかということを考察した本。ソーシャルメディアだけでなく、インターネットやモバイル等、メディアビジネスの全貌が把握できる本だ。読後、現状認識が一変したと告白しておこう。
2010年3月、フェイスブックがグーグルを抜き、米国でいちばんアクセス数の多いサイトになった、というニュースが流れた。「ふーん、そうなんだ。フェイスブックって、そんなに凄いのか。いままでのSNSとどこが違っているの?」と思ったが、フェイスブックそのものがよく理解できていないせいもあり、それ以上調べようともしなかった。しかし、日に日にフェイスブックという言葉が目につくようになってきた。仕事の上でもソーシャルメディアをどう使うか、という課題が出てくるようになってきた。新書だし1日あれば読めるかな、という軽い気持ちの読書。しかし読んでみると、大きな衝撃を受けた。
「検索の時代」から「ソーシャルの時代」へ。
SNSといえば、ミクシィやグリーで、いっとき流行ったけど、最近はあまり使っていないし、モバゲーとかも若者向けでけっこう成功しているとは聞いているが、自分でやろうとは思わない。その米国版であるフェイスブックが、なぜグーグルを抜くアクセス数を獲得できたのか?この本は、その問いに対する答の本だ。一言で言うと『「検索の時代」が終り、「ソーシャルの時代」が始まっている』ということだ。グーグルは、優れた検索エンジンを開発し、世界中のインターネット上の情報の中から欲しい情報にアクセスできるようにした。さらに、その検索結果と連動した広告を表示する仕組みを生み出して、一気にインターネットの世界のトップ企業になった。ここに来て、グーグルの検索エンジンも入り込めない領域を作りだそうとする企業が現れた。そののひとつがアップルである。そしてもうひとつの領域がフェイスブックやツィッターに代表されるソーシャルメディアである。特にソーシャルメディアでは、情報がごく短い時間で爆発的に広がる現象が起きるが、グーグルのサーチエンジンでは、その情報を見つけ出すことができない。その理由を、著者は「なぜなら、グーグルが自らウェブ上の情報をクローリング(収集)してインデックス化する速度を、ソーシャルメディア経由で世界中のユーザーがコンテンツをウェブにアップロードする速度がはるかに凌駕してしまうからだ。」と考察する。ソーシャルメディアにおける「ネットワーク」は、いわば「人と人のつながり」をインターネット上に移植したものであり、そのつながりが、とても濃く、強く、そして速い。しかも、そこに蓄積された情報は、趣味や消費行動など、個人情報の宝庫である。ソーシャルメディアによって生まれる情報の流れを「ソーシャルストリーム」と呼び、ソーシャルメディア上に蓄積される情報の集積を「ソーシャルグラフ」と呼ぶ。いまのフェイスブックは、この2つを充分に活用する(マネタイズする)仕組みをまだ見つけていないという。フェイスブックがそれを見つけ出した時、かつてグーグルが検索エンジン連動広告を見つけた時のような爆発的な成長がはじまるだろうと予測している。
「ソーシャルコマース」急成長。
その一方で、ソーシャルメディアの仕組みに寄生する形のビジネスで急成長を遂げた企業も生まれている。グルーポンというネットベンチャーは、創業からわずか2年で年商300億円を実現した。そのサービスは、決められた地域ごとに毎日ひとつの商品やサービスの割引クーポンを24時間の制限時間の中で販売するというもの。ユーザーはグルーポンが提供するクーポンの情報をフェイスブックで瞬く間に共有され、拡がっていく。またグルーポンは、クーポンを発行する地域ごとにツィッターのアカウントを設け、クーポンの情報を発信している。購入者が規定の数に達しなければ売買が成立しないため、購入したいユーザーはツイッターなどで友人などに広めようとする。大した広告費も使わずソーシャルメディアの仕組みを利用して瞬間的に、爆発的に販売する販売の手法は「ソーシャルコマース」と呼ばれている。他にも「Gilt」「ウート」などのソーシャル・コマースが注目を集めているという。
2011年にブレイク、2014年、ミクシィ、グリーを抜く。
そして本書は、次なる10年、ソーシャルメディアは、どのように発展していくのかを予測しようとする。グーグルも、もちろん手をこまねいているわけではない。これまでも自身のサービスの中にソーシャル機能を盛り込もうとして、失敗を繰り返しているという。EC最大手のアマゾンも、2010年7月フェイスブックとの提携を始めた。そして楽天はどう動くのか?ミクシィやグリーはどう対抗するのか、その予測シナリオも描かれている。数年前「グーグルゾン」という映像がyoutubeで公開され、話題になったことがある。将来、Googleとアマゾンが合併して、あらゆるメディアを支配してしまうという「警告メッセージ」だったが、そこにはソーシャルメディアの存在はなかった。あの時、ソーシャルメディアが、ここまで重要性を増すと誰が予測できただろう。著者は、メディアの動きの予測するには、グーグル、アップル、フェイスブックツイッター、アマゾン、マイクロソフトという6社の動きを見ていけばよいと言う。さらに、その中でグーグルVSアップルとグーグルVSフェイスブックのの対立軸を見ていけばよいという。この6社の中に日本の企業が1社も入ってないのが淋しい。フェイスブックは現在、日本ででは100万人程度で2000万人のユーザーを抱えるミクシィに遠く及ばないが、著者は、2011年にブレイクし、2014年にはミクシィや、グーグルを抜くと予測している。