福岡伸一 対談集「エッジエフェクト」

新しい重要な変化は常に周縁(エッジ)で生まれてくる。真ん中ばかりを見ていると次の潮流が見えない。周縁は境界であり、別の世界と触れ合っていて、常に何かが生まれている。「エッジエフェクト」とは化学などで使われる「界面作用」のこと。生物学者である著者が、様々な分野の第一人者と出会う。分野と分野の界面でどんな現象が生まれるか…。ふつう分野が異なると「使う言葉」が違うため、どちらかが相手に歩み寄らなければ、対話が成立しないものだ。どうしてもインタビューのようになってしまったりする。しかし本書では著者のしなやかで解像度の高い言葉が相手の言葉とシンクロし、より深い反応を引き出している。どの対談も読み応えがあるが、自分が気に入ったのは桐野夏生森村泰昌梅原猛古事記を題材にして男女の根源的な関係を描いた「女神記」、一人の女と31人の男が無人島に漂着する「東京島」など、過激な手法で男女の関係を表現しようとする桐野と「できそこないの男たち」を書いた福岡の対話はスリリングだ。森村泰昌が自らの映像を通じてフェルメールの表現の謎を発見していく話も興味深い。福岡自身もフェルメールへの思い入れが強いことも好感が持てた。梅原猛は、縄文文化への傾倒から、吉村作治の導きでエジプト文明と弥生文化の類似に気づき、弥生文明を見直したという思考の変遷が興味深い。梅原猛という人は、とても率直というか、新しい情報によって自論をどんどん変化させていく人。80歳を越えてもやまない、そのダイナミズムが魅力だ。対談の中に出てくる梅原猛の著書『「太陽の哲学」を求めて』は課題図書としよう。「本書を読み終えて感じるのは、現在という時代の閉塞感と、そこからなんとか抜け出したいという強い欲求だ。しかし従来の方法では不可能であり、かなり思いきった過激な転換が必要だと誰もが感じ始めていることだろうか。理系でありながら文学的な感性を合わせもった福岡伸一自身の存在がエッジエフェクトなのかもしれない。