小説

宮内悠介「ヨハネスブルグの天使たち」

このところ日本の新しいSF作家たちを読んでいる。囲碁や将棋など、ゲームを題材にしたSF短編集「盤上の夜」がなかなかよかったので、本書を購入。舞台は、前作とはガラリと変わって、近未来のリアルワールド。内戦により荒廃した近未来のヨハネスブルグ、9.1…

宮内悠介「盤上の夜」

まず、これSFなの?という疑問が。不思議な才能だ。囲碁、チェッカー、麻雀、チェスの原型となったチャトランガ、将棋…。全作品、ゲームが題材である。小川洋子の、チェスを題材にした小説「猫を抱いて象と泳ぐ」を思い出した。チェスの世界でしか生きられな…

スタニスワフ・レム「ソラリス」沼野充義 訳 再読

ほぼ40年ぶりの再読。 世界30数カ国語に翻訳されているという名作中の名作SF。レムは、僕が一番好きなSF作家である。ソ連のアンドレー・タルコフスキーと米国のスティーブン・ソダーバーグによって映画化され、どちらも劇場で観ている。タルコフスキー版では…

ジェフ・ヴァンダミア「全滅領域」「監視機構」「世界受容」

この著者の作品を初めて読んだ。久々にハマったSF。3部作である。「サザーン・リーチ・シリーズ」というらしい。1作目を読み始めた時点で、すでに3作とも出版済みだったので、1週間ほどでいっきに3作を読み終えた。印象は「懐かしさ」と「新しさ」。懐…

稲葉真弓「海松」「半島へ」

今年8月、本書の著者が亡くなっていた。享年64歳、すい臓がんだった。その事をつい最近まで知らずにいた。たまたま書店で見つけた著者のエッセイ集「少し湿った場所」を手にとって帯の文章を読んで初めて知った。 数年前に著者の短篇集「海松」を初めて読ん…

宮部みゆき「荒神」

2013年3月から2014年3月まで朝日新聞に連載していた新聞小説。毎日コマ切れに読まされる新聞小説は好きではないが、本書は連載中から気になっていて、発売と同時に購入。不思議なことに宮部みゆきの小説を読むのは本書が初めて。著者の作品が別に嫌いという…

奥泉光「東京自叙伝」

タイトルがとてもいい。コンセプトが明快に見える。著者は1994年「石の来歴」で芥川賞を受賞している。2年ほど前に著者による「神器―軍艦「橿原」殺人事件」を読んだ。「神器」は、ミステリーと思って読み始めたが、内容はかなりぶっ飛んでいた。太平洋戦争…

ティムール・ヴェルメシュ「帰ってきたヒトラー」

2011年のベルリンの一画で、一人の男が目を覚ます。彼はガソリン臭い軍服を着ている。彼の名はアドルフ・ヒトラー。1945年、陥落直前のベルリンからたった一人で現代にタイムスリップしてきた。側近も、親衛隊も、軍隊もいない彼は、街をさまよう内に親切な…

映画「永遠の0」

泣いた。 ようやく映画版「永遠の0」を鑑賞。しっかり泣いた。周囲からも、すすりあげる声やハンカチを取り出す音が、聞こえてきた。2年ほど前、原作を読んだ時もやっぱり泣いたと思う。しかし見終わってみると、原作を読んだ時と同じ違和感を感じている自…

藤崎慎吾「深海大戦」

著者の前々作の「ハイドゥナン」は、深海テーマと海底遺跡、島の伝説、共感覚、海底地震など魅力的な要素を組み合わせた壮大なSFだった。前作の「鯨の王」はシロナガスクジラをはるかに越える巨体と知能を持った新種の鯨とのファーストコンタクト話で、まあ…

小野不由美「残穢」

怖すぎて、家に本を置いとけない。 友人のおすすめ。小野不由美の最高傑作かもしれないという。また「怖すぎて、家に本を置いとけない」とのこと。残穢:「ざんえ」と読む。僕自身は小野不由美ファンではない。スティーブンキング並の重厚な長編「屍鬼」を読…

新庄耕「狭小住宅」

前回のエントリーのきっかけになったHさんのFBの投稿の中で触れられていた本書、読んでみることにした。話はシンプルだ。Hさんによると「不動産販売の営業マンになった若者の、売れない苦闘と、売れるようになった後の精神的退廃の物語」。主人公は入社から…

Hサんの返信への返信 村上春樹「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の旅」

Hさんという人がFacebookに村上春樹の新作への感想を書いていたので、コメントを付けたら、彼のブログに長い返信が書かれてびっくり。http://water-planet-bungaku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-16 その内容は彼のブログを読んでもらうことにして、その返信へ…

村上春樹「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」

いわくありげなタイトルと発売日のみの発表で、ここまで話題になるのだから凄い。店頭に大量に置かれた本書をレジに持っていくのは、少し恥ずかしい。本を買うのに、こんな気持ちを体験するのは珍しい。村上春樹の作品。かつては時代のトレンドをチェックす…

グレゴリー・ベンフォード「輝く永遠への航海」

ロボットが人類に反乱を起こす「ロボポカリプス」を読んで「機械VS人間の戦い」を描いた作品をあれこれ思い描いているうちに読みたくなった作品がいくつかあった。その内の一冊が本書である。「夜の大海の中で」から始まる「機械生命VS有機生命」シリーズの…

三上延「ビブリア古書堂の事件手帖4 栞子さんと2つの顔」

「古書の世界」がベストセラーに。 古書というものに、若い世代ほど馴染みがないと思うのだが、古書店を舞台にした「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズがベストセラーになっているらしい。先日、FMを聴いていたら本書の作者の三上延と百田尚樹がゲストで出…

上田早夕里「華竜の宮」

Kindle Paperwhiteで購入。 電子書籍で最後まで読み終えた記念すべき最初の作品となった。いままでiPhoneやiPadで電子書籍を何点か購入したことはあるが、全部途中で挫折。Kindle Paperwhiteを購入してからも冲方丁の「光圀伝」を購入したがなぜか読了できず…

ダニエル・H・ウィルソン「ロボポカリプス」

機械VS人類。 スピルバーグ監督による映画化という帯のコピー惹かれて購入。進化した機械が人類に反乱を起こすというテーマは、SFの黎明期から繰り返し描かれてきた。この「機械と人類の戦い」という物語は、昔は遠い夢物語だったが、新しくなるに従ってリア…

高村薫「冷血」

前作「太陽を曳く馬」から3年ぶりの長編。 「晴子情歌」「新リア王」「太陽を曳く馬」の難解三部作から一転しての、本格刑事小説、犯罪小説である。『僕らの高村薫が帰ってきた』と、高村ファンには好評のようだ。しかし「晴子情歌」「新リア王」を読んでい…

マイクル・クライトン「マイクロワールド」

2カ月以上も間が空いてしまった。 本は以前と変わらず読んでいるのだが、感想が書けなくなってしまった。幾つかの個人的な事情や、仕事のこともあり、精神的に余裕がなく、読んだ本の中身を、きちんと自分の中で消化するためのエネルギーが枯渇しているみた…

葉室鱗「蜩ノ記」ほか

時代小説は好きなジャンルだが、藤沢周平を読み尽くした後は、他の作家を読んでもあまり面白くないと思ってしまう。ストーリーがご都合主義で人物描写が浅い。しかも設定などが藤沢作品の二番一煎じに思えてしまう。だから時代小説が読みたくなると、藤沢作…

三上 延「ビブリア古書堂の事件手帖---栞子さんと奇妙な客人たち」「ビブリア古書堂の事件手帖2---栞子さんと謎めく日常」

自分では、まず買わない本である。先入観で選んではいけないが、この手の本はなかなか手が出ない。著者はライトノベルの作家だという。カバーおよび挿絵がアニメ風というかコミック風で、それだけで拒否反応を起こしてしまう。読んだ家人によると「古書の話…

朱野帰子「海に降る」

海洋をテーマにした文学は、大好きなジャンルだが、その中でも深海を舞台にした「深海もの」は、どんな駄作でも必ず買ってしまう分野。古くは、ジュールベルヌの「海底二万里」。A.C.コナンドイル「マラコット深海」。A.C.クラークの「海底牧場」。最近では…

高野和明「ジェノサイド」

今でも書店で平積みのベストセラー。 昨年のベストセラーを今ごろ読了。クライトン風のハイテクスリラー、SF、軍事モノと、ジャンルを超越している。アメリカのネオコン、ルワンダの虐殺など、人類の悪意や暴力を語る視点は、伊藤計劃「虐殺器官」を思わせる…

小松左京「虚無回廊1・2・3」

小松左京の最後の長編ともいえる作品。宇宙と人類の未来をテーマにした名作「果てしなき流れの果てに」「神への長い道」「ゴルディアスの結び目」等の系譜につながる壮大なテーマ作品だ。最初に刊行された時に「1」は読んだと思う。再読してみて、ストーリ…

古川 日出男「馬たちよ、それでも光は無垢で」

友人に借りた本。友人は本書を読み始めたが「すごくしんどい。先に読んで」という。読んでみた。なるほど…。詩を思わせる、美しい、不思議なタイトルに惹かれる。著者の作品を初めて読んだが、一言で言うと、言葉のコードが違うという感じ。だから読みにくい…

恩田陸「きのうの世界」

このところ震災・原発関係、スマートテレビ、電子書籍、シェア、コミュニティデザインなど、考えながら読む感じの本が多かったので、息抜きに小説を読むことにした。割と軽く読めて、たっぷり楽しめる長編小説がいい。買ったのは恩田陸「きのうの世界」と奥…

万城目学「偉大なるしゅららぼん」

京都、奈良、大阪の次は、滋賀だ。滋賀というか、近江は、マイ古代史ブームの中で、かなり重要なポジションを占めているので、期待して読んだ。著者の作品は、「学園もの」プラス「伝奇的ファンタジー」である。軽妙な語り口で描かれる学園生活の中に、古代…

伊藤計劃「ハーモニー」

コンセプトはある。プロットも巧みだ。しかし物語の核心がない。 最初に言っておくと、この作者が書いた前作の「虐殺器官」は、自分の中で、ここ数年読んだ本の中で、最も重要な1冊であると思っている。読んでいるうちに、この作者の思考や狙いが、こわいほ…

桜庭一樹『「伏」贋作・里見八犬伝』

2日で読了。退屈しなかったが、もの足りない。 NHKBSの「週刊ブックレビュー」の特集コーナーで紹介されていた作品。江戸の町に「伏」と呼ばれる化物が出没し、残虐の限りをつくし、江戸の人々を悩ませていた。伏の首には賞金がかけられている。そこに剣術…