最後のクルマ選び その2

人生最後に乗るクルマは、どんなクルマになるだろう。

子供はいない。当然、孫とかもいない。介護すべき親もこの世にいない。夫婦二人だけの老後。そんな生活にふさわしいクルマってどんなクルマだろう。基本は、毎日が休日で、毎日がプライベート。趣味や自宅で過ごす時間が中心になるだろう。たまに旅行に行くこともあるだろう。密かに田舎暮らしを目論んでいるので、荷物や道具を運ぶ機会は多くなるかもしれない。そんなことをあれこれ考えながら「最後のクルマ」の情報を集め始めた。

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小さなエコカーにしよう。

アルデオの時代は、クルマへの興味を封印していた20年間だったが、広告屋として、自動車業界の動向は一応把握していた。しかし、それはあくまでも、マーケティングブランディングの対象としてのクルマへの興味であり、自分が所有して運転する対象としてのクルマではなかった。今回のクルマ選びも、広告屋的目線で、なんとなく「コンパクトなエコカーがいいかな」ぐらいの気持ちでスタートした。定年後の二人暮らしで、車で遠出することも少なくなった生活に大きなクルマは必要ない。また、老後のための蓄えを減らしたくないので、価格や維持費は安い方がいい。さらに、運転に自信がなくなって来たので、小型車の方が扱いやすいだろう、というぐらいの理由。まず候補にあげたのは、トヨタ・アクアホンダ・フィット、日産・ノートe POWR、マツダ・デミオ、軽自動車のホンダ・N-ONEなど。トヨタのアクアをあげたのは、アルデオで20年近く面倒を見てくれたトヨタのディーラーの印象がよかったので「買うならトヨタで」と思っていたから。ただし、アクアのデザインが好きになれず、他メーカーで「小さなエコカー」を探すと、ホンダ・フィットや、日産・ノート、マツダ・デミオにも目が行く。この中で、デザインが好きなのは、ホンダ・フィットだ。金属の塊から削り出したような、ソリッドで、直線的なデザインが小気味よい。それに比べると、アクアは、薄い板を曲げて成形したような、薄っぺらな感じのデザインに見える。ノートのePOWERは、シリーズハイブリッド方式というユニークなHVに興味を覚えた。シリーズハイブリッドは、エンジンが駆動を受け持たず、発電のみを行い、駆動はモーターのみで行う方式であり、一般のハイブリッド車より、低価格になる。また、回生ブレーキを積極的に利用して、ほとんどアクセルペダルのみで速度がコントロールできるという、ワンペダルドライブが特色だ。難点はデザイン。ガソリンエンジン車がベースであり、エコカーらしい新しさを感じない。ホンダの軽自動車、N-ONEも候補の中に入れておこう。知り合いで、定年を迎え年金生活に入って、普通車から軽に乗り換えた人がいる。N-ONEは、普通車から軽自動車に乗り換えた人たちが選んでおり、軽自動車とは思えない性能と質感を実現しているという。マツダ・デミオは、ディーゼル車の常識を覆した、静かでパワフルなディーゼルエンジンに興味があり、存在感のあるデザインも好ましく感じていた。マツダが、ここ何年か展開している“Be a driver.”のキャンペーンは、広告屋としても、1人のユーザーとしても共感できる。住んでいるマンションでも、最近、マツダ車が増え、そのうち3台はデミオである。デミオは、今回の有力候補と思われた。ちょうど九州に出かける用事があって、現地でレンタカーを借りることになった。フィットを借りたかったが、車両の手配がつかずデミオになった。初めて乗ったデミオの、あまりに硬い乗り心地にびっくり。一般道では、路面の段差や継ぎ目をしっかり拾って、突き上げが半端じゃない。少し速度を上げて走るように心がけると、改善され、高速道路に入るとさらにフラットになるが、硬い乗り心地には最後まで慣れなかった。このクルマは、やはり運転を楽しむスポーティカーなのだと実感した。

運転席でのウラシマ体験。

20年近くも同じクルマに乗り続けていると、最新の自動車事情に疎くなるのは、当然のことだが、ここまでギャップを感じるとは思わなかった。最初に見に行ったのは、ホンダのフィット。ところがフィットの運転席に乗り込んだ家人の反応が芳しくない。「なんか見にくい」という。家人に代わって、運転席に座ってみて、驚いた。運転席から見える世界が全然違っているのだ。ボンネットは全く見えず、その向こうの路面は、はるか彼方に見える。リアウィンドウも小さく遠く、これでバックするのは至難の技だと思えた。ボディ全体が四角くて、窓が広く、着座位置が高いアルデオから乗り換えると、フィットの視界は、恐怖を覚えるほど狭い。燃費向上のために空力特性を極限まで追求したフィットは、フロントウィンドウの傾斜がきつく、ボンネットは全く見えないのはもちろん、その先に見える路面もはるか遠い。車両感覚というのか、自分が運転しているクルマの四隅が把握しづらいのだ。そして、フィットだけでなく、候補にあげた他のクルマも、視界の狭さという点では同様だった。アクアも、ノートも、デミオも同じだった。最新のクルマたちは、空力特性を極限まで追求した結果、ドライバーの視界を犠牲にしてるように思えた。ディーラーのスタッフに、そのことを聞くと、「最初は戸惑うお客様も多かったのですが、皆さんすぐに慣れます」という。そういうものかもしれないが、運転席からの視界や車両感覚というのは、いわばヒト・クルマ・外部のインターフェイスの基本ともいえる要素だ。そのインターフェイスが、進化した最新のクルマで後退しているという事実には、かなりショックを受けた。この時の体験が、家人の印象を悪くしたのか、結局、彼女は、フィットを気に入らなかった。さらに他のコンパクトカーも嫌だと言い出す始末。もっと他のクルマも見てみよう、という話になった。「コンパクトなエコカー」に絞り込んでいたクルマ選びは、振り出しに戻ってしまった。

SUV輸入車

コンパクトカーの印象が悪かった時、家人の印象が良かったのが、そばに展示してあったSUV。以前にパジェロに乗っていたこともあるが、視界の良さという点では、視点が高く、視界の広いSUVに好印象を持ったようだ。さらに「人生最後のクルマになるかもしれない」という僕の言葉にも影響を受けたのか、「BMWとかはどうなの?」と仰天の発言が飛び出してきた。輸入車は、考えもしなかったので驚いた。あまりに選択肢が広がって、収拾がつかなくなってきた。

プリウスの人相。

現在のアルデオを購入したディーラーには、20年近くお世話になったこともあり、次のクルマは、トヨタで購入しようと思っていた。次はエコカーをと考えていたこともあり、最初はアクア、次にプリウスも候補にあげていた。しかし結局は、プリウスも、他のトヨタ車も選ばなかった。その理由の一つがプリウスのデザインである。トヨタの新しいプラットフォームであるTNGAによるパッケージングはよさげに見える。デザインも未来っぽく、空力特性を重視した全体のプロポーションは、昔のSF映画に出てくる「未来の自動車」みたいだ。問題はディテール。特にフロントまわり。余計な線が多すぎるのだ。プリウスに限らず最近のクルマは「人相」が悪くなったと感じる。LEDライトで小さな電球が使えるようになったせいか、切れ長目、つり目が増え、エヴァ風の人相が多くなった。プリウスには、能面の小面のような不気味さを感じてしまう。一般に、自動車における新しいデザインが出てきた時、最初は違和感が生じ、醜いとさえ感じるものだが、見慣れるにつれて、好ましいと思えてくることが少なくない。ところがプリウスの場合は、いつまで経っても最初の違和感が消えないのだ。このデザインをトヨタの社長が良くないと発言したそうだが、さもありなんである。後から出てきたプリウスPHVでは、フロントまわりの処理が変更され、かなり改善されたと思う。このPHVプリウスのデザインを普通のプリウスにも採用していたら、僕はプリウスを選んでいたかもしれない。自分はデザインにこだわるほうではないと思っていたが、プリウスのデザインはどうしても許せない。いろいろなクルマを見ていくうちに、別にEVやハイブリッド車でなくてもいい、と思うようになっていったこともトヨタ車を選ばなかった理由の一つ。

草食系道具車。

実は、以前から気になっているクルマがあった。数年前に、確か高速道路のサービスエリアで見かけた、ルノー・カングー。くすんだ淡いブルーのそのクルマは、荷室に3台のロードバイクをきれいに並べて積んでいた。確か前輪を外してあったと思うが、「どうやって自転車を固定しているんだろう」と興味を持って室内を覗き込んだ。DIYで作ったらしい固定具や、道具箱、パーツ棚などが、きちんと配置されているのを見て、「いい趣味だなあ。このクルマは、趣味のために生まれたクルマなんだ」と羨ましくなった。走りに徹した高性能車やヘビーデューティーなSUVとは正反対の草食系道具車。元々自分は、DIYやアウトドアが好きだったということもあり、これを機会にDIYやアウトドア生活を復活させる手もあるかもと思った。カングーを移動基地にして、アウトドアざんまい、などと夢が膨らむ。ただし、現在のカングーは、サービスエリアで見たカングーではなく、モデルチェンジしたカングーで、かなり大きくなり、デザインも、もっさりして、先代の軽やかさが失われたように感じられる。同じようなコンセプトのクルマは他にないのだろうか。ある。先代のトヨタ・シェンタは、このカングーをスケールダウンしたような草食系道具車だった。少し前に、全く違うコンセプトとデザインでモデルチェンジした。スポーツバッグをイメージしたというデザインは、当初、抵抗があったが、見慣れると悪くないデザインに思えてきた。新しいシェンタは、売れているようで、街でもよく見かける。タクシーとして走っているのを時々見るし、介護サービスなどの送迎などにも使用されているようだ。また、トヨタはタクシー専用車を売り出しているが、そのベースにもなっている。シェンタのカテゴリーはミニバンらしいが、デザインの巧みさのせいか、大きめハッチバック車に見えるのも好ましい。蛍光色と黒のツートンカラーのデザインは派手だが、黒/黒や白/黒のおとなしいカラーリングを選ぶと、カテゴリーの違うクルマに見える。僕一人で決められるなら、カングーか、この新シェンタを選んでいただろう。ルノー・メガーヌとコンパクトSUVルノー・キャプチャーを見に行った時に、そばに展示してあったカングーを家人に紹介した。中年のセールスマンが近づいてきて「フランスではほとんど商用車として使われているが、日本ではなぜか一般の人が買っている」と説明してくれる。家人の反応は「こんな商用車みたいなクルマは嫌」の一言。新シェンタも、蛍光グリーン/黒を見て、「若すぎ、高齢者が乗るクルマではない」と即座に却下。「移動基地になる草食系道具車」の夢は儚く潰えた。

CGのジャイアントテスト 。

SUVから輸入車まで、「なんでもアリ」になってしまって、途方にくれていると、書店で、購読をやめてから20年以上経っている雑誌「CAR GRAPHIC」4月号の特集に恒例の「ジャイアントテスト」を発見し、即、購入。内外の300万円台のクルマの比較テストである。ルノー・メガーヌ/ルテーシア、プジョー・308/208、シトロエンC3、ミニ、VW・ゴルフ、国産車ではホンダ・シビックとスバル・インプレッサが選ばれている。この特集を熟読して、最新のクルマたちの情報を仕入れることにした。しかし、よく考えて見ると、この中にハイブリッド車も電気自動車も入っておらず、ある意味でかなり偏った車種選びであることがわかる。さらに比較テストではないが、300万円台カーの番外編として、BMWの1シリーズ、ルノー・カングー、フィアット500アバルトの試乗記も掲載されている。この特集記事により、候補をいくつか選び、ディーラーに出かけて行くことにした。

 シトロエンを諦める。

最初に行ったのがシトロエンのショウルーム。目当てはC3。ずっとシトロエンに憧れていた。映画「ファントマ」に登場する「空とぶDS」に始まり、全てを油圧で制御するハイドロニューマチックの魔法のような乗り心地やセルフレベリング、1本スポークのステアリングホイールなど、ドイツ車でも、米国車でも、英国車でも、イタリア車でもない、まして、他のフランス車とも大きく異なるユニークな発想と技術とデザインは、自動車に興味を持つようになって以来の憧れだった。80年代の終わりに1度だけXMを買おうと真剣に考えたことがあるが、結局買わずに、三菱のパジェロを選んだ。それから30年近く経ち、もはやハイドロニューマチック・サスペンションを搭載したモデルは消え、グローバル化の波によって、かつてのユニークさは失われている。復活したDSには、宇宙からやってきたような初代DSの斬新さはどこにも無い。ショウルームで見たC3には、かつてのシトロエンのようなユニークさはもう見られない。それでも2017年度のCGアワードを獲得し、CGジャイアントテストでは、Bセグメントながら、乗り心地などでCセグメントのクルマたちを凌いでいる。ちょっとコンパクトSUVっぽいスタイルにPOPで過激なディテールを加えたデザインがユニークで面白い。しかし長年の夢も、家人からは「若い女の子が乗る車みたい」の一言で却下される。

 隣りのプジョー

シトロエンのショウルームと同じ敷地の中にプジョーのショウルームもあり、そちらも覗いてみることにした。展示してあった308SWというモデルに目が釘付けになった。ほとんど黒のような紺のステーションワゴン。余計な線がなく、緩やかな曲線のみで構成された、シンプルなシルエットが美しい。家人も気に入ったようで、乗り込んでみる。ボリューム的には、アルデオとそう変わらない。着座位置も若干高いようで、ボンネットもなんとか見える。エンジンは1.2L 3気筒ターボと1.6Lディーゼル。試乗車は無かったが、裏の駐車場に止めてあったモデルのエンジンをかけてもらう。ディーゼルエンジンの方は、驚くほど静かで、とてもディーゼルとは思えない。ガソリン車の方は、さらに静かで、エンジンが動いているのかどうかがわからないほど。白のクルマを欲しいと思ったことは一度もないが、パールホワイトというのか、艶のある白いボディが、大きな海棲獣のように見えた。ただし、デザインを優先しているせいか、ウエストラインが後ろ上がりで、後部座の閉所感が強く感じられるのが気になった。

駐車場問題。

コンパクトカーが気に入らなかった家人が、最初に「このクルマなら大丈夫そう」と言ったのが、マツダSUVCX-5だ。視点が高く、フロントウィンドウの傾斜もきつくないため、視界が広い。座席ポジションを一番高くするとかろうじてボンネットも見える。アルデオの前に乗っていたパジェロに近かったせいもあるだろう。かなり乗り気になっていたようだ。以前、同じマンションに住む人がCX-5ディーゼル車に乗っていたことがあり、随分褒めていたことがあって印象は悪くない。しかしスペックを見ると、ボデイの幅が1840mmもある。マンションの立体駐車場の制限が1850mm以内なのでギリギリである。駐車パレットにおさめるのが難しそうだ。そこで試乗の時に自宅まで行き、実際に駐車場に入れられるか試してみることになった。駐車スペースが端っこの難しい場所だったこともあり、案の定、駐車パレットにうまく載せられない。タイヤとパレットの枠のわずかな間隙を保ちながらバックしないといけないのだ。うまくいかない理由の一つが、窓を開けて下を見ようとしても、家人の身長ではタイヤが見えないのである。CX-5は、ボディよりウィンドウ部が、内側に後退しているため、窓から首を出してもボデイに遮られてタイヤが見えないのだ。標準で装備されているリアビューカメラもあまり役に立たない。サイドミラーを下に向けて、タイヤの位置を確認するしかない。昼間はなんとか駐車できるにしても、夜に帰ってきて駐車するのは困難に思われた。CX-5がNGとなると、マツダ車の中で欲しいと思うクルマがなくなってしまう。

スバルはどう?

ある日、家人が「スバルはどう?」と言い出した。TVCMを見て気になったらしい。個人的には、スバルは悪くないと思っている。多くの名機を生み出した中島飛行機をルーツに持つ技術集団というイメージ。世界でも数少ない水平対向エンジンを採用し、最近では“i sight”という自動運転システムの評判がいいらしい。村上春樹の小説にも登場する。しかし、スバルの車種構成がよくわからない。「レガシー 」という上級モデルがある。その下に「インプレッサ」があり、「フォレスター」というSUVに特化したモデルもあったなあと言う程度の理解。現在乗っているアルデオがワゴンであることもあり、レガシーの「ツーリングワゴン」というコンセプトはいいなと思っていた。ところがディーラーに行ってみるとレガシーのツーリングワゴンという車種がなく、レガシーアウトバックというSUVっぽいモデルがあるのみ。セールスのスタッフ(女性)は、商談席に僕らを座らせて、いきなりアイサイトなどスバルの自動運転技術の優位性を説明し始めた。こちらの要望も聞かず、自動運転の技術の説明を始めるのは唐突すぎないか?説明の後、レガシーのツーリングワゴンを見たいというと、レガシー・アウトバックのところに案内された。アウトバックは、やたらでかく見えた。スバルのスタッフは、それならとレヴォーグとXVのところへ連れていく。ディーラーの裏の駐車場で見た真っ黒のレヴォーグは、高性能車らしい凄みのあるオーラを放っていた。運転席に乗り込むと、インテリア周りも黒中心の男性的な印象で、着座位置も低め。戦闘的という言葉が浮かんだ。エンジンはなんと300馬力だという。老人には、そんなにたくさんパワーは不要です。サイズはアルデオより幅が10cmほど大きいだけだが、随分と大きく感じられた。次に見たのがXV。SUVらしいが、同じSUVであるフォレスターとの関係はどうなっているのだろう。道具感というのか、普段着感覚のデザインが好ましい。3車を見終わって、アウトバックレヴォーグ、XV、それぞれの位置付けが今ひとつ理解できず、どの車種が自分向きなのか、よくわからないまま、ショウルームを後にした。家人も同様らしく、その後はスバルの名が出てくることはなかった。あとで調べてみると、レヴォーグが、レガシーツーリングワゴンの後継モデルらしく、XVは、インプレッサSUV版ということらしい。レヴォーグ(2.0Lの300馬力版ではなくて1.6L版)とXVを候補に残しておこう。スバルのクルマを見たことで、自分が求めている方向性がステーションワゴンにあるのだとわかってきたことも収穫だった。

徒歩5分のフォルクスワーゲン

フォルクスワーゲンというメーカーに興味を覚えたことは一度もない。ゴルフは、小型車のベンチマークとしての地位を保ち続けている堅実で地味なドイツ車という印象。上のクラスにパサート、下のクラスにポロなどがある。2015年にディーゼル車の排ガス規制における不正が明らかになった時、このメーカーの車に乗ることは一生ないだろうなと思った記憶がある。当然、今回のクルマ選びの候補にも入っていなかった。しかし、歩いて5分の場所に新しいショウルームができてからは、しょっ中前を通るようになり、嫌でも目にするようになっていたことも事実。ある日、ディーラー巡りの帰りに、「ちょっと立ち寄ってみようか」と車を乗り入れた。お目当ては、ゴルフ。CGジャイアントテストでも取り上げられていて、評価は悪くなかった。しかし現在のゴルフ7と呼ばれるモデルが登場してから5年以上経過しており、そろそろ次のモデルの登場が噂されそうな時期でもある。この頃には、頭の中が「ステーションワゴン」になっていたので、迷わずゴルフ・バリアントに目が行く。大きさはプジョー308SW、スバル・レヴォーグとほぼ同じ。アルデオと比べても、幅以外はほぼ同じで違和感が少ない。しかしデザインが地味だ。遠目には「え、カローラ・ワゴン?!」と思うほど大人しく、輸入車のありがたみが全くない。しかし、僕は、この、何の変哲も無い「地味デザイン」に引っかかってしまった。定年をすぎた年金生活者には、このような目立たないデザインのクルマが相応しいのではないか…。

幅1800mm問題。

候補に残ったのはスバルのレヴォーグとXV、プジョー308SWとゴルフ・バリアントの4車。どれにするか?その前に確認したいことがあった。4車とも幅が1700mmを越え、1800mm前後。マンションの立体駐車場のパレットに楽に停められるか?ゴルフ・バリアントの試乗の時に、自宅まで足を伸ばして、実際に駐車してみることにする。ゴルフでできれば、サイズがほぼ似通ったあとのクルマでも可能だろう。下記に各車のサイズを記しておこう。

トヨタ・アルデオ 4640X1695X1515mm  ホイールベース:2700mm

ゴルフ・バリアント 4575X1800X1485mm ホイールベース:2635mm

プジョー・308SW   4585X1805X1485mm  ホイールベース:2730mm

スバル・レヴォーグ 4690×1780×1490mmホイールベース:2650mm

スバル XV             4465×1800×1550mmホイールベース:2670mm

果たして試乗の結果はどうだったか。たった100mmほどの差なのだが、駐車は格段に難しいと感じられた。その理由は、ボディとウィンドウの位置関係にあった。アルデオは、ボディとウインドウがほぼフラットなため、窓から首を大きく突き出さなくても、リアタイヤがよく見える。しかしゴルフはウインドウの位置がボディから後退しているため、目一杯首を突き出さないと、リアタイヤが見えないのだ。最近のクルマは、デザインや安全設計のために、ボデイよりウインドウの位置を後退させているのだ。前にもマツダCX-5で試してみたが、さらに幅広い1840mmというサイズもあって、運転席からリアタイヤがほぼ見えなかった。ゴルフは、CX-5よりは幅が小さいこともあって、夫婦ともなんとか駐車することができた。この試乗により、幅1800mmでもOKという結論を出した。

結論。

僕の中では4車が残っていたが、家人の中では、プジョーとゴルフしか残っていなかったようで、スバルの試乗はもうしなくてよいということになった。再度ディーラーを訪れ、見積もりを出してもらったが、2車はほぼ同じ金額。デザインの良さでは二人ともだんぜんプジョーだった。しかし僕はプジョーの後部座席の閉所感と3気筒エンジンの少し雑味のある音が気になっていた。さらにディーラーの遠さ。VWは、徒歩5分の場所だが、プジョーは、クルマで30分ほどかかる場所にあった。アルデオを買ったトヨタのディーラーも徒歩10分の距離にあって、点検や修理など、とても便利だったのだ。色の問題もあった。プジョーならディーラーで見た黒に近い紺にしようと決めていた。ゴルフの方は、スタイルが地味なので、白とかだと、カローラ・ワゴンみたいに見えてしまうので、明るい目立つ色にしようとターメリックイエローと呼ばれるメタリックイエローを選んだ。しかし、この色は、日本ではあまり人気が無く、ほとんど入ってきておらず、ディーラーにも在庫がないという。国内の他のVWの販売会社に問い合わせてみて、在庫があれば交渉して譲ってもらうことになるという。他の色は考えていなかったので、イエローのモデルがなければ諦めることにして、VWのディーラーを出た。翌日、電話で「黄色が見つかりました」という連絡が入った。これで決定。年明けから3ヶ月近くかかった「最後のクルマ選び」がようやく終わった。