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鳥居「キリンの子 鳥居歌集」

詩歌の本はほとんど読まないが、知人から本書を教えられて、即購入。著者のプロフィールが凄まじい。2歳の時に両親が離婚。目の前で母が自殺。児童養護施設に入るが虐待を受ける。小学校中退、ホームレスにもなった。拾った新聞で文字を覚え、短歌を作りはじめる。作品が入選し、歌集を出した今も、セーラー服を着て、母の形見である赤い傘をさしている…。こんな生い立ちの著者がどんな言葉を紡ぎだすのか?

鮮烈な言葉、凄惨なイメージ。

言葉が意味ではなく、ほとんど生理的ともいえる痛みとなって刺さってくる。母の自殺や目の前で電車に飛び込んだ友人、虐待の歌などは、読んでいて息苦しくなってくる。特に、友人が目の前で踏切に飛び込んで自殺した時の体験を歌った連作「紺の制服」は、歌人の目に焼きついた光景が、コマ落としの映像のように連続して動いていくのを読者は体験させられる。連作を読み終えて、思わず息を吐き出した。短歌でこんな体験をしたのは初めてだ。

歌われることで、救われていく。

救いは、少女が歌人になったことだろうか。泥にまみれ、地を這うような日々が、歌われることで詩に昇華され、救済されていく。描かれた体験は凄惨そのものだが、歌になった世界は、不思議と静謐で、読み手を癒してくれる。

なぜか懐かしさを感じる。

歌集を読み終えて、デジャ・ブというか、懐かしさのようなものを感じた。僕らがまだ十代だった頃、生きづらかったり、疎外感を感じたりしたことが、本書の中で極北の姿で歌われているのかもしれない。十代の終りに読んだ「天の鐘」という神経症の少女が書いた詩集を思い出した。地を這うような日々を生きる者は、大空や天に憧れる。著者も、歌の中で自らを天駆ける「キリンの子」であると歌いあげる。歌人は、今も複雑性PTSDに悩まされているという。