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トム・ヒレンブラント「ドローンランド」

近未来の交通とメディアの姿を描いたSFを探していて、本書に遭遇。高城剛の「空飛ぶロボットは黒猫の夢を見るか」が予言するような「インターネットにつながった自律型ドローンが日常のあらゆる空間を飛び交う未来」を描いたSF。著者はドイツ人で、料理ミステリーのシリーズが人気だという。本書は、2015年、ドイツ語圏において最優秀のミステリーに与えられる賞と最優秀なSFに与えられる賞を受賞している。

新世代のSFミステリー。

舞台は数十年未来のヨーロッパ。ブリュッセル郊外の農地で欧州議会の議員が射殺される。ユーロポールの主任警部アート・ファン・デア・ヴェスターホイゼンはイスラエル人アナリストのアヴァ・ビットマンとともに捜査を開始する。書き出しは、普通のミステリと変わらない。しかし捜査が始まると世界が一転する。あらゆるデータにアクセスできるスーパーコンピューター「テイレシアス:通称テリー」との対話により調査が進んでいく。そして「ミラースペース」と呼ばれるバーチャルリアリティ空間に入り込んでの捜査が面白い。ミラースペースとは、地上のあらゆる空間に入り込んだドローンが収集した情報で再構成されるVR空間である。そこでは、視覚はもちろん、触覚、嗅覚、味覚などまで再現される。ドローンが現場で収集したデータに、遺体の解剖や銃弾の弾道、殺害時の気象などのデータを加えて、犯行の瞬間を再構成することができる。警部たちは本部にいながら、ミラースペースの中の犯行現場に立ち、犯行の瞬間を見ることができるのだ。中でも圧巻は、遠く離れた犯人の隠れ家に突入する場面だろう。あらかじめ「ダニ」と呼ばれる微小ドローンを隠れ家に侵入させ、ミラースペースにリアルタイムで隠れ家の内部を再現しながら、その中に主人公が入り込む。主人公は、なんと犯人の側に立って突入隊を指揮するのだ。(もちろん犯人からは主人公の姿は見えない)本書は、ミステリでもあるので、ストーリーを紹介しないが、400ページ近い長編をいっきに読めた。

近未来のテクノロジーたち。

本書には多くの未来テクノロジーが登場する。大小の様々なドローン、スペックスと呼ばれるメディア眼鏡、衣服やテーブルなど、あらゆるものをディスプレイにするメディアフォイル、スプレーで壁などに吹き付けるだけで、ディスプレイになるスプレー塗料。自動運転の自動車…。ドローンは、宅配用から、暗殺用、パパラッチ用、モグラ型など、およそ考えられる限りの種類が登場する。またドローンを使って映像をインターネット上に公開する「ドロガー」なる人種も登場する。本書の秀逸さは、そんな様々な未来のガジェットたちを、とてもさりげなく登場人物たちに使わせていることだろう。

究極の監視社会が出現する。

本書に描かれたような、地上のあらゆる場所にドローンが出没し、情報を収集する社会というのは、間違いなく「監視社会」だろう。そして、あらゆるデータにアクセスできるスーパーコンピューターや人工知能につながる日が来るだろう。そんな未来を警告するにしては、本書は面白すぎる。