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高城剛「空飛ぶロボットは黒猫の夢を見るか? ドローンを制する者は世界を制す」

読んで、かなりショックを受けた。これまで著者の本を何冊読んできたことだろう。怪しいという人もいるが、新しいトレンドを嗅ぎ分ける嗅覚の鋭さと、自身のライフスタイルすらガラリと変化させてサバイバルしていく柔軟性には、いつも驚かされる。著者は、2012年、フランス・パロット社のARドローンを購入して以来、ドローンに夢中になり、数十台のドローンを購入、総額1000万円以上を費やしたという。タイトルはもちろんP.K.ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」へのオマージュ。黒猫はクロネコヤマトから。           ※写真は2010年に僕自身が購入したパロット社のARドローン初代機

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2015年、ドローンは突然、注目を浴びた。

2015年4月、首相官邸の屋上にドローンが落下。5月の三社祭りにドローンを飛ばすと予告した少年が逮捕された…。ドローンは、日本では、どちらかというと人騒がせな事件によって注目を集めた。その時点で日本にはドローンを規制する法律は存在しなかった。政府は大急ぎで法整備を急いだ。その後も、ドローンに関する報道は事件が中心だった。しかしamazonがドローンによる宅配の実験を進めているなどの情報が紹介されると、今度はビジネスの面で俄然、注目を浴びるようになった。安倍政権は「ロボット革命実現会議」を設置。12月には、千葉県をドローン特区にして、ドローンによる宅配実験を始め、3年以内に同県で宅配サービスを開始するとしている。ソニーモバイルも、ロボットベンチャーZMPとコラボで、ドローンビジネスを立ち上げた。インターネットがモノの世界とつながっていくIoT(Internet of Things)の時代、ドローンは、その切り札となるテクノロジーであると位置付けられるようになった。

2種類のドローン

著者は、ドローンには2種類あるという。インターネットの延長としてのドローンとそうでないドローン。後者は、いわ ばラジコンヘリの延長であり、操縦者が必ず操縦して飛行させる、現在、空撮などに使用されているドローンだ。著者が注目するドローンはもちろん前者である。GPS電子コンパスによって自動飛行し、様々な目的に使用される。空撮、農薬散布、商品の宅配、災害現場や火山など危険箇所の観測、測量など、その 用途は、今後ますます広がっていく。

空飛ぶスマホ

著者は、さらにドローンは「空飛ぶスマホ」であるという。CPU、通信モ ジュールを持ち、GPS電子コンパス、ジャイロ、様々なセンサー、そしてカメラまでも備えている。違いは「空を飛んで移動する」こと。ここ数年の間に、 スマホが私たちの生活を大きく変えたように、この「空飛ぶスマホ」は、これからのくらしをガラリと変えてしまう可能性がある。

ECのラストワンマイルをドローンが担う時代がくる。

著者は、今後、モノのインターネットではなく、インターネットのモノ化が進んでいくという。サイバースペースは、これから現実の物理空間に拡張されていく。その時、ドローンが大きな役割を果たすの だと、著者は予測する。音楽や映像や電子書籍ならデジタル化して、インターネットで流通させることができる。しかし実際のモノを送るためには、既存の宅配 サービスを使わなくてはならない。ECサイトamazonでは、約5件に1件が配達先不在であり、それを人間が行うコストは馬鹿にならない。物流のラス トワンマイルともいえるこの宅配業務をドローンに置き換えることができたら大きなコスト削減になるという。Googleがインターネット上のあらゆる情報 をクローリングで読み取り、アクアセス可能な形に再構成したように、リアル世界の隅々までアクセス可能にする、その鍵を握るのがドローンだという。

ラジコンヘリとの違い。

無線で操縦する飛行機やヘリコプターは以前からあった。ドローンはそれらとどこが違うのだろう。著者によると 自律性だという。従来のラジコンヘリは、操縦のすべてを人間が行う必要があったため、操縦は、本物のヘリコプターに匹敵するほど難しかったという。これに 対してドローンには、ジャイロコンパスや各種のセンサー、GPS受信チップが搭載され、ある程度自律的に飛行することができる。飛行中、操縦を止めても、 そのまま自動的に空間に浮かんでホバリング(空中停止)を続けることができる。また操縦そのもの格段に優しくなっている。あらかじめ指定したコースを自動 飛行したり、人物などの移動体を追跡することも可能。

ドローンで、モノづくり王国・日本が復活なるか?

ハードウエアとソフトウエアが一体となった開発が求められるドローンは、モノづくり大国・日本が復活する大きなチャンスになるのではないか…。僕自身、そんな希望をいだいて日本のドローン開発に注目していた。ヤマハ発動機は、早くから農薬散布や空中作業を行う大型のラジコンヘリコプターを製造している。しかもドローンに使用される多くの部品が日本製だという。センサ類、電子コンパス、小型カメラ、画像処理チップ…。工業ロボットでも高いシェアを持つ日本。AIBOを生み、ASIMOを生み、ペッパーだって発売しているロボット先進国日本の出番だ。しかし本書を読むと、そんな希望は、ほぼ打ち砕かれる。

日本はドローン開発で大きく出遅れている。

著者によると、日本がドローンのビジネスで世界をリードするのは、ほとんど絶望的であるという。様々なセンサやカメラ、画像処理技術などドローンに使われている部品の多くが日本製である。DJIの開発者は、自社のドローンが準日本製であるとすら語っている。それにもかかわらず日本からは有力なドローンメーカーが出てこないのはなぜなのか?著者はドローン市場を牽引する3つのドローンメーカーのトップにインタビューを試みて、その答を見つけようとする。

世界の3大ドローンメーカー。

現在、ドローン市場を牽引しているのは3つのドローンメーカーである。雑誌Wiredの編集長で、「ロングテール」「Free」「Makers」等の著者であったクリス・アンダーソンが起こした3Dロボティックス社。中国南部の深圳(しんせん)に拠点を置くDJI。そしてフランスのパロット社である。3社はそれぞれがまったく違う特色を持った企業である。著者は、3社を訪れ、それぞれのトップに話を聞いている。3Dロボティックス社は、創立当初からオープンソース戦略を採用。世界中のユーザーや技術者とともに開発を進めてきた。DJIは3Dロボティックス社と正反対で、徹底した独裁主義、秘密主義を貫いている。DJIは本部の所在すら明らかにしておらず、本部が入っているビルも看板等はなく、外部からはまったくわからないという。この秘密主義のDJIが、現在、世界のドローンの7割を占めているという。DJIがドローン市場の先頭を走っている理由は、ハード、ソフト一体となった開発スピードにある。3番目はフランスのパロット社。著者が最初に買ったドローンがフランスのパロット社製だった。同社のドローンは、産業や流通のあり方を変えるドローンではなく、あくまで「美しくて、楽しいおもちゃ」である。しかし、おもちゃとはいえ、その性能はあなどれない。

広東チャイニーズシリコンバレー、深圳のスピード。

DJIの圧倒的な開発スピードを生み出しているのは、同社が拠点を置く深圳という街だという。深圳という都市は、90年代に世界中のアパレルブランドの製造拠点として発展し、近年はテクノロジー化が急速に進み、広東チャイニーズシリコンバレーと言われるほど大発展を遂げている。中国は、国を挙げて、この地域に人材とマネーと集中させて、世界最大の製造拠点を作りあげてきたという。深圳にはドローン工場、ドローンの部品を製造する大小の工場が数多く存在し、ドローンビジネスを支えている。そこには、かつて秋葉原に大勢いたようなモノづくりおじさんやにいさんが現在もたくさんいて、どんな要求にも応えてくれるという。ドローンを作りたければ、深圳に出かけて、製造のコーディネート会社に希望するスペックを伝えると、3〜4日で試作サンプルが出来上がってくる。それが気に入れば、量産の見積もりは1日でアップ。日本なら「いったん預からせてもらいます」と持ち帰って、2週間は待たされるのが普通だが、その頃には深圳では、量産が始まっている。このすさまじいばかりスピードはシリコンバレーをもはるかにしのぐ。深圳の1週間は、シリコンバレーの1ヶ月間に匹敵すると言われているが、著者によると、ドローンの分野ではもっと差が開いているという。3Dロボティクス社が3ヶ月かけてやることをDJIは1週間で済ませているらしい。シリコンバレーには、パソコンの黎明期には、大小の工場がたくさん存在し、そこからアップルやマイクロソフトが出てきたが、ビジネスの中心がハードからソフトやネットに移行した段階で、ハードが陳腐化し、付加価値を生み出せなくなったため、モノづくりそのものが南米やアジアに移転してしまい、国内でハードウェアを開発・製造する環境がなくなってしまった。3Dロボティクス社のドローンも、DJI近くの工場で生産されているという。

アメリカは軍用ドローンの実績がある。

民生用ドローンの開発では大きく水をあけられたアメリカだが、軍事用ドローンに目を向けると、多くの蓄積がある。膨大な予算を投じて開発される軍事用ドローンには、民間企業では難しいブレイクスルーが起きる可能性が高いという。それらに関わった技術者が民間企業に下ることで、イノベーションとなり、中国をいっきに逆転する可能性は十分にあるという。

日本発のドローン。

このような状況の中で、日本発のドローンは可能なのか。著者によれば、よほどのことがなければ、日本がドローンビジネスをリードすることはありえないだろうという。著者によると、最も大きな理由が、起業家や経営者の「博才感」であるという。ものになるかどうかわからないものに「賭ける度胸」というのか。「失われた25年」で日本が失ったのは、この「賭ける度胸」だという。日本では、誰もリスクをとらず、国家からの補助金の奪い合いだけが横行し、何か問題が起きても自分の責任を回避できる状態にならなければ何事も決定しないという。そして、その段階では、当たろうが失敗しようがどうでもいい話になってしまっている…。著者が、これまで関わってきた日本のドローン関係者に対しては終始辛口だ。

日本の進むべき道はあるか?

徹底した秘密主義と独裁、そして圧倒的なスピードで先行する中国は、日本の協力など必要としていない。そして同じ中国人どうしでも信用しない中国の企業が日本を信用するわけがないという。ソニーモバイルの試みも、あまりにスケールが小さいという。デジタル一眼のブランドであるαの名を冠したドローンを出すぐらい思い切ったことをやらなければ勝ち目はないだろうという。日本に残された道は、オープンソース戦略を選んだアメリカと協力関係を保ちながら、中国に負けないドローンを開発することだという。さらに日本独自の「3Dスマートタウン」や「ドローンシティ」といったシステムインテグレーションのノウハウを構築することにある、と、著者は考えているという。

これはドローンだけの話ではない。未来の覇権を争う米中戦争の話なのだ。

本書を読み終えて感じたこと。僕自身も2010年に、本書にも登場するパロット社のARドローン初代を購入。まだ搭載カメラも貧弱で、飛行時間も短かったが、スマホで操縦する、その面白さに魅了され、大きな可能性を感じた。将来は、ランニングの練習に出かけるときに、ドローンがついてきて、水を運んでくれたり、ペースやタイムを教えてくれたり、暑いときは、空飛ぶ扇風機になってくれたりする…みたいな妄想を楽しんでいたことを思い出した。それから5年、ドローンは、あっという間にロボティクス革命の先端に躍り出た。著者によるドローンをめぐる米中の覇権争いの実態を知るにつれ、これは、単に空飛ぶロボットの話ではなく、未来の覇権をめぐる米中戦争の話なのだ、と思った。そして日本が、その競争に加わることは、ほとんど無理だということもわかって、ショックを受けた。著者が最後に日本が生き残る道として提示した、「ドローンシティ」のような、システムインテグレーションの方向も、そんなに簡単ではないだろう、と思った。