牧村泉「梅ケ谷ゴミ屋敷の憂鬱」

友人の寺久保さんのおすすめ。著者は、コピーライターから作家に転身、2002年、「邪光」で第3回ホラー&サスペンス大賞を受賞。寺久保さんが開いた集まりで会ったことがあるかないか…。「邪光」は読んだ。主人公の女性の心理描写が巧みで、平凡な主婦がじわじわと壊れていく過程がリアルに描かれていて、並々ならぬ才能だと感じた。焦らしながら、読者を恐怖に追い詰めていく感じは、ちょっとスティーブン・キングを思わせた。これが4作目。寡作な人なのかな。

今回はホラーじゃない。

今回はホラーではなく、ちょっと変わったホームドラマみたいなストーリー。主人公、珠希は、東京に住む主婦。広告代理店の営業マンである夫が突然、広告代理店をやめ、叔父夫婦が経営する大阪のソース製造の会社に就職することになり、夫の実家に引っ越してくる。姑が一人で住む実家は、足の踏み場もないほど、ガラクタで埋め尽くされていた…。今回は、ドタバタのホームコメディか、と思っていたら、けっこうシリアスな展開になっていく。それと、語り口が、どことなくホラーっぽい。ひょっとしたら、コメディとホラーは、紙一重なのかも…。

謎の姑。

ゴミ屋敷の主人である義母は、主人公をいじめるモンスター姑…。そこに戻ってきた、夫が前妻との間にもうけたヤンキー娘とヘビメタの恋人。主人公の友人の真理子から預かる子供、萌も、ヌイグルミに取り憑いた幽霊らしき存在と話している…。さらに夫の前妻までが出現する。典型的な大阪のオバチャンである姑も、前妻の子であるヤンキー娘も、なんとなくホラーの登場人物っぽい。姑にも、夫にも、その行動にどこか不自然なところがあり、奇妙な同居生活が始まる。家中を埋めつくすガラクタが鍵になって展開していくのかと思いきや、主人公の知らなかった、家族のさまざまな秘密が明らかになっていき、ドロドロの愛憎ドラマへと展開していく。

やっぱりホラーな展開へ。

著者は、夫婦や親子、恋人同士の愛憎など、パーソナルな世界のリアリティから物語を築き上げていくタイプの作家なのかもしれない。タイトルや導入部は、コメディを思わせ、ストーリーが進んでいくと、シリアスな展開に変化し、殺傷沙汰を含むクライマックスへ。このままホラー小説か、犯罪小説につき進んでいっても違和感なさそう、と思いながら読み進んでいく。ひょっとしたら、尼崎の監禁殺人事件みたいな話になっていくのかと思ったが、最後はホームドラマの枠の中に収まって、ジ・エンド。ちょっと肩すかしな読後感。でも、この作風は嫌いじゃない。しかし著者には、やっぱりホラーが合っているような気がする。バリバリの大阪のオバチャンがモンスター姑として登場するホラー小説を書いてほしい。きっとハンパないこわさだ。まだ読んでいない2作品「ファントムペイン」「ストーミーマンデー」も読んでみよう。