T・マーク・マッカリー中佐&ケヴィン・マウラー「ハンター・キラー アメリカ空軍・遠隔操縦航空機パイロットの証言」

本書は無人機のひとつである「プレデター」のパイロットが書いた本である。数年前、フランスのパロット社の「ARドローン」を買って飛ばしてみて、物凄く大きな可能性を感じたことを覚えている。「無人機:ドローン」は、世の中に大きな変化を引き起こすイノベーションのひとつであると思っている。空撮や人間が入り込めない危険な場所での観測や作業、警備、空からの宅配など、様々な活用が期待されるいっぽう、盗撮、不法侵入、テロ、遠隔監視など、犯罪に悪用される可能性も小さくない。軍事分野では、早くから無人機の研究開発と実戦での利用が進んでいる。無人機の使用が報道されるようになった時、これによって「戦争」の様相が大きく変わっていくだろうと思った。案の定、最初は偵察のみだったが、ほどなくミサイルや爆弾を搭載し、攻撃に使用されるようになった。ISに対する空爆の映像などを見ていると、有人の戦闘機が出撃するシーンが多いが、実際には「無人機」による攻撃のほうが多いのではないかと疑っている。本書を読むと、それを裏づけるような記述が出てくる。2011年の米空軍における戦闘機、爆撃機の年間飛行時間は4万8千時間。これに対して無人機プレデターの飛行時間は50万時間を超えており、すでに10倍以上になっている。無人機による空爆が報道されないのは、国際的な人権団体などがそ無人機による空爆を非人道的であると抗議しているためではないか。さらに、何千キロも離れた無人機を遠隔操縦するパイロットはストレスが大きく、退役後、PTSD心的外傷後ストレス障害)に悩まされることが多いという。空軍の中でも、無人機のパイロットは、有人の航空機のパイロットに比べて人気がないらしい。戦争の様相を一変させるであろう、ドローンのようなテクノロジーが、実際の戦闘で、どのように運用され、どんな変化を戦場や兵士たちにもたらしているのか知りたくて、本書を購入した。タイトルの「ハンター・キラー」とは索敵と攻撃を別々の航空機が受け持ち、連携して行うもので、無人機では、両方を1機で行うことから。

無人機=ラジコン飛行機ではない。

無人航空機「プレデター」の姿を初めて見た時、何よりもまず不気味さを感じた。パイロットが乗るコクピットが無いという無機的なフォルムは、H.R.ギーガーのデザインによる「エイリアン」を思わせる異形そのものだ。無人航空機は、手投げで飛行を開始する「レイブン」から幅30mを超える巨大な無人偵察機「グローバル・ホーク」まで数多くの種類があるという。無線操縦のイメージから、ラジコン飛行機に毛が生えたようなものだと思ってしまうが、本書に登場するMQ-1プレデターはセスナ172とほぼ同 じサイズと重量で(全長約8.2m、全幅約14.8m、重量約512kg)エンジンはスノーモービル用エンジンを改良したターボチャージャー付4気筒の 115馬力。高度約7600mまで上昇可能で、燃料補給なしで24時間飛行可能である。

北米の操縦ステーションから静止衛星を介して世界中の無人機を操縦。

操縦システムは、北米の空軍基地に設置された操縦ステーションから静止衛星を経由して数千キロ離れ たプレデターをパイロットが操縦するものだ。離着陸時の操縦だけは現地の基地の操縦ステーションから行う。北米の基地から遠く離れた場所だと、操縦と航空機の動作には、最大数秒のタイムラグがあり、危険だからだ。プレデターの操縦は、機体を操縦するパイロットとカメラを含むセンサー類を操作するセンサーオペレレーターの2 名で行う。当初は偵察飛行のみだったが、9.11以降のミッションの中でミサイルを搭載できるように改造され、対戦車用のヘルファイアミサイルを2基搭載する。新しいMQ-9リーパー(死神)では、ヘルファイアミサイルを4基、225kg爆弾2個を搭載できる。

無人機=ロボット機ではない。

本書では無人航空機 "Unmanned Aerial Vehicle" やドローンと呼ばず、遠隔操縦航空機(Remotely Piroted Aircraft:RPA)と呼ぶ。無人機に対しての風当たりは強く、アムネスティ・インターナショナルなどの団体が、無人機によるアルカイダの要人殺害や地上部隊の支援を非難している。著者は、無人機といっても、空軍のパイロットが遠隔で操縦するシステムであり、ロボットのように自律的に動くわけではないので、これらの非難は不当であると不満を述べている。

1万km離れたテロリストと向き合う。

著者は、2003年、空軍のプレデタープログラムに志願する。当時、空軍の中でのRPA部隊は人気が無く、集められたパイロットたちは有人航空機の搭乗からはじき出された落ちこぼればかりだった。自ら志願したのは、著者を含め、たったの4人だった。訓練を終えた著者たちは飛行隊に派遣され、アフガニスタンアルカイダの幹部を捜し出して殺害するミッションに就く。地上の部隊が得た情報をもとにアルカイダ幹部の潜伏先を見つけ出し、上空から旋回しながら24時間監視する。時には何ヶ月も監視を続けて、幹部の行動パターンを把握する。彼の行動パターンを把握できたら、次に襲撃場所を決めて、捕獲や襲撃のミッションを実行する。オサマ・ビン・ラディンらしい人物を見つけ出し、襲撃直前までいったミッションもある。勤務はシフト制で、シフトの間じゅうずっとディスプレイの中の幹部の日常を監視し続ける。そしてシフトが終わると平和な日常生活に帰っていく。本書の中で、妊娠中の女性がプレデターのセンサーオペレーターを務める場面が出てくるが、そんなことが可能なのも、RPAならではだろう。

無人機の操縦士は、退役後PTSDになることが多い。

無人機の操縦士には、自らが戦地に赴く有人機のパイロットとはまったく違うストレスが加わるようだ。例えば戦闘機のパイロットは最前線で戦うが、敵の人間の姿を直接目にする機会はほとんどないという。いっぽう無人機の操縦士は、長期間にわたって敵の一人を監視し、さらに殺害の瞬間まで相手の映像を見続けることになる。そのせいか、退役後、PTSDに陥るパイロットも有人機より多いという。著者自身も、最初にアルカイダ幹部を殺害した後、ショック状態に陥り、友人に助けを求めている。

著者は行方不明になったネイビーシールズ・チームの捜索に参加したり、陸軍や海兵隊の地上部隊との共同作戦に参加するようになって、経験を重ねてゆく。当初は、あまり価値を認めていなかった軍も、プレデターが成果を積み重ねるにつれ、その有用性を認めるようになり、活躍の場が広がっていく。著者は、RPAコミュニティから出た2番目の指揮官として第60遠征偵察飛行隊の指揮をとることになる。派遣先は、東アフリカのジブチ共和国。彼らはここを拠点に、イエメンに潜伏し、アラビア半島に影響力を拡大しつつあるアルカイダの指導者、アンワル・アル・アウラキを見つけ出す任務に就く。著者が指揮する飛行隊は、アル・アウラキを見つけ出し、監視し、ついに殺害に成功する。著者は、8年間にわたって、プレデターを操縦し続け、空軍を退役する。

戦争の無人化は急速に進んでいくだろう。

本書を読んで感じるのは、今後ますます兵器の無人化が進むのは間違いないということ。冒頭でも引用したが、2011年にはプレデターの年間戦闘飛行時間は50万時間を超えたという。一方、戦闘機と爆撃機の年間飛行時間は、非戦闘を含め合計4万8000時間だった。RPAの登場によって対テロ戦争は一変する。ヘリコプターが撃ち落とされる心配も、兵士が死傷する心配もない。人的被害のリスクが減ることが最大の要因となって、兵器の無人化はますます進んでいくだろう。現在は航空機が中心だが、今後は軍艦や戦闘車両の分野でも無人化は急速に進んでいくに違いない。その先には、自律モードで動くロボット兵器やロボット兵士の出現もありうるだろう。兵器の無人化は、今後、加速度的に拡大していくだろう。

非対称の戦争。

それと、もうひとつ気になることが、無人機などのハイテクで監視され、殺害される側の武器があまりに旧式であること。彼らが使用する武器は、ほとんどがカラシニコフAK-47だし、車両もトヨタ・ハイラックスなどのトラックやバイクが多い。それは、イラクでも、アフガンでも、シリアでも同じだ。アメリカや多国籍軍が、戦闘機やヘリコプター、無人機、暗視技術など、あらゆる最新技術を投入しているのに比べ、テロリスト側には旧式そのものの武器しかない。いわゆる非対称の戦争。それでも勝てない戦争があるのだ。