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アンディ・ウィアー「火星の人」

面白いとは聞いていたけれど、600ページ近いボリュームと火星有人探査という平凡なテーマのせいで敬遠していた。2016年2月公開のリドリー・スコット監督「オデッセイ」の原作、ようやく購入。2日強でいっき読み。いや文句なしに面白かった。

古くて新しい。宇宙サバイバルSF。

3度目の有人火星探査は着陸後6日目に、未曾有の暴風により中止。地球への帰還を余儀無くされる。帰還のため、探査用のハブ(基地)から宇宙船に移動している時、基地のアンテナが暴風で吹き飛び、隊員のひとりマーク・ワトニーを直撃する。アンテナの支柱が彼の宇宙服に突き刺さり、はね飛ばしてしまう。宇宙服の生命維持装置が示す数値は、彼の死亡を示していた。宇宙船にたどり着いた5人の宇宙飛行士は、彼の捜索を諦めて飛び立っていく。しかし、彼は奇跡的に生きていた。通信アンテナは破壊され、NASAや宇宙船との通信はできない。他の隊員もNASAも彼が死亡したと思っている。次の火星探査は4年後までやって来ない。食料も水もそれまで持たない。絶望的な状況の中で、彼は生き延びることを決意する。地球から持ってきた土を使って土壌を作り植物の栽培を試みる…。基地に残された機材や資源を巧みに組み合わせて、持てる知識を総動員して生き延びていくのだ。

アポロ13」「ゼログラビティ」そして…。

宇宙におけるサバイバルストーリー。「アポロ13」「ゼログラビティ」などの名作がある。しかし、登場人物が一人なので単調になるのでは、という推測から購入に至らなかった。それがもう読み出したら止まらない。一気に読み終えた。火星探査なんて、やろうと思えば今でも実現できそうだし、向こうに行っても砂漠しか無いじゃん、と舐めてかかっていた自分に反省。まず主人公がとても魅力的だ。どんな絶望的な状況でも、決して諦めず、時にユーモアすら見せるキャラクターがとてもいい。後半に出てくるNASAのメンバーや探査隊の同僚も、みんなチャーミングだ。そして、主人公が考え出す様々なアイデアも、きちんと科学的な裏付けがあって、読み応えがあるのだ。何度も絶望的な状況に陥りながら、アイデアを出して乗り越えていく。乗り越えたと思ったら、また大きな問題が起きて絶体絶命の事態に追い込まれる、その連続である。だから全然退屈しない。翻訳もいい。

ネットから生まれた大型新人。

著者は、おたくを自称する作家志望。最初は自分のサイトで公開し、人気を呼び、Kindle版を出版。そこでさらに火が付き、紙の本を出版したという。主人公の造形といい、新人らしからぬ力量を持った大物の登場だ。2月の映画公開が楽しみだな。