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宮内悠介「盤上の夜」

まず、これSFなの?という疑問が。不思議な才能だ。囲碁、チェッカー、麻雀、チェスの原型となったチャトランガ、将棋…。全作品、ゲームが題材である。小川洋子の、チェスを題材にした小説「猫を抱いて象と泳ぐ」を思い出した。チェスの世界でしか生きられない風変わりな人物たちが登場する、不思議な遊園地のような作品だった。本書のストーリーは、もっとシリアスだ。中国を旅行中に、誘拐され、四肢を切断された日本人少女が囲碁盤を感覚器として生きるようになり、碁界の頂点に登りつめる「盤上の夜」。半世紀近く無敗だったチェッカーのチャンピオンがコンピューターに負ける「人間の王」。統合失調症の娘、精神科医、サヴァン症の少年とプロの麻雀士が麻雀のタイトル戦で戦う「清められた卓」など…。数理や統計が支配する、あくまで抽象の世界を生きながら、そこを突き抜けて、宇宙の真実にたどりつこうとする極北の人間たちの姿を描いた作品群。本書を、とても面白いと感じたが、将棋も、囲碁も、チェスも、麻雀すらできない自分には、本当の面白さは半分も感じられないのではないかと思う。1945年8月6日、広島で原爆投下の日に行われた本因坊戦を題材にした「原爆の局」は、原爆投下時のヒロシマと、世界最初の原爆実験が行われたニューメキシコホワイトサンズ砂漠を結んだストーリーが秀逸だ。その世界観は、なぜか、J.G.バラードの、終末を描いた作品群に通じるところがあると感じた。著者は本書で、第147回直木賞候補、第33回日本SF大賞を受賞している。次の作品である「ヨハネスブルグの天使たち」も第149回直木賞候補、第34回日本SF大賞特別賞を受賞している。本書のようなゲームの枠組みを離れて書かれた作品も読んでみたい。