鈴木敏夫「ジブリの哲学 〜変わるものと変わらないもの〜」

またまたジブリ関連。本書を読んで、鈴木敏夫という人物について、わかったと思ったことがある。彼は「プロデューサー」というよりは「編集者」ではないか」ということ。本書の中で面白いのは、宮崎駿について書いた文章。それ以外の文章は、ロジカルで明快ではあるが、正直に言ってそれほど面白くない。しかし、宮崎駿という天才を見つめる視線は、どこまでも冷静で的確だ。本書の面白さは、そこに尽きると思う。宮崎駿の最大の理解者にして最高の相談役。巨匠の志向や思いを的確に捉え、導いていく手法は編集者のそれではないか、と思う。本書で一番面白いのは「宮崎駿の情報源」という章。情報化社会の到来で、世界が変わり、日本が変わり、ジブリも変わった。そういう世の中の変化にまったく影響を受けていない男がいる。それが宮崎駿であると、鈴木は言う。では宮崎駿にとって、情報とはどのようなものなのか。
25年、変わらない奥さんの手弁当
まず食べ物、この何十年間か宮崎駿の食事は、ずっと奥さんの手弁当。特徴はアルミの弁当箱にご飯がぎゅうづめになっていること。それを彼はお箸で2つに分けて、昼飯と晩飯にする。毎週木曜日だけは奥さんが出かけるため、彼は自分で弁当を作る。その日だけ、彼の好きなおかずが並ぶという。たまのごちそうが駅前の牛丼屋で、すき焼き定食を食べること。牛丼の肉を別皿に盛るとすき焼き定食になる。値段は460円。彼が心から好きなごちそうはトンカツ定食だという。また彼の着ているものは、ほとんどが所沢の西友で購入したものだという。更にワープロやパソコン、携帯電話などに対する巨匠のユニークな反応が面白い。
新聞・テレビ・読書・旅人。
そしていよいよ紹介される巨匠の情報源が1.新聞(朝日、日経、赤旗)、2.テレビは、唯一観る番組が日曜夜のNHKスペシャル。この番組で彼は現代史の勉強をするという。月曜日の朝は、この番組の内容をめぐって、鈴木やスタッフと議論をするという。そして3.が本。彼の読書は大きく3種類に別れていて、(1)児童文学。(2)教養書:好きだったのは堀田善衞。(3)戦争関係で、これは趣味。最も詳しいのが独ソ戦。2000万人が死んだという歴史上、最も悲惨な戦争で、あらゆる資料を読んでいて、巨匠のライフワークかも、というコメントがついている。4.は旅人。ジブリにやってくる様々な人からの情報である等々。
企画は半径3メートル以内にいっぱい転がっている。
また作品を作る時、企画につながる彼の情報源はふたつしかないという。一つは友人の話、そして、日常、スタッフとのなにげない会話。巨匠はいつも「企画は半径3メートル以内にいっぱい転がっている。」と口走っているらしい。巨匠の話は、いつも勉強になる。「はしがきにかえて」の、アイルランドのアラン島を旅した時のエピソードも素敵だ。