三上延「ビブリア古書堂の事件手帖4 栞子さんと2つの顔」

「古書の世界」がベストセラーに。
古書というものに、若い世代ほど馴染みがないと思うのだが、古書店を舞台にした「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズがベストセラーになっているらしい。先日、FMを聴いていたら本書の作者の三上延百田尚樹がゲストで出ていて、どちらも今最も売れている小説家として紹介されていた。先週、新聞に、本書の全15段広告が掲載されていた。今年1月から剛力彩芽主演でテレビドラマが放送中。そうなのか、売れてるんだ、このシリーズ。萌えっぽいイラストの表紙で、普通なら敬遠してしまうところを、昨年、家人の「面白いよ」という言葉につられて読んでみたが、実際けっこう面白かった。しかも新作が出る度にますます面白くなっていく。古書をめぐるエピソードを題材に事件を紡ぎ出し、店主の栞子が古書に関する膨大な知識を駆使してその事件を解決していく。その手法には磨きがかかっている。気になるのは、このシリーズの読者。いったいどんな層なんだろう。題材となる古書は「論理学入門」など、けっこうマイナーな本もある。若い人がそんな本に興味を持つとは思えないが。僕の印象では、かなり幅広い層に読まれているのではないかな、意外と年齢層は高いのではないかと見ている。
4作目にして母が登場。
本書はシリーズ4作目。前作までは短編集だったのが、本書で長編に挑戦している。取り上げられたのは1冊まるごと江戸川乱歩。物語は10年以上前に失踪した母、智恵子が栞子たちの前に姿を現すところから始まる。同じ頃、ビブリア古書堂に女性がやってきて、鎌倉の姉の家にある江戸川乱歩のコレクションを買い取ってほしいという。その家に栞子と大輔がたずねていくと、車椅子に座った姉が現れ、完璧な江戸川乱歩のコレクションを見せられる。彼女は栞子に、ある仕事を依頼する。それがうまく行けばここにある乱歩のコレクションを全部売却してもいいと言う。ある仕事とは、家にある古い金庫を開けることである。ネタばれになるので、これ以上ストーリーは書かないが、乱歩の様々な作品やエピソードをからめながら本書の謎解きが進んでいく。
ライトノベルの手法は有効?
誰かがレビューで書いていたが、著者の表現手法はライトノベルの手法そのままだという。栞子の母の描かれ方は、まさにラスボスで、栞子が膨大な古書の知識を駆使して謎を解き明かせば、母の智恵子が、その上を行く知識を見せつける…。また別のレビューで、ラスト近く、母が栞子を古書にまつわる旅に行こうと誘う場面があるが、これは父のダースベイダーが息子のルークをダークサイドに誘う場面とまったく同一だという。迷う栞子を引き止めるのは、大輔への愛だという。なるほど。そういう読み方もあるのか?と感心した。この指摘が正しいとすれば、ライトノベルの手法というのはけっこう有効なのだと思う。それは一言でいうと、キャラクター化と物語パターンの活用ということだと思う。若い世代の作家たちは、歴史やファンタジー、SFなどのゲームやコミック、アニメなどで物語の基本を学んでいく。SFやファンタジーなどの物語の多くは様々な民族の神話をベースにしているから、無意識の内に、人類が受け継いできた神話の語り部としての方法を身につけることになる。ライトノベル出身だからといって偏見を持ってはいけないと思うようになった。買ったままで投げ出してあった有川浩の「図書館戦争」シリーズも読んでみようかな。