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びわ湖一周ロングライド2012完走記


3月18日6時30分頃、滋賀県長浜市の湖沿いの豊公園。天候は曇り。前日は雨だったので、路面はところどころ濡れている。気温は5度前後。かなり寒い。ここは「びわ湖一周ロングライド2012」のスタート地点。僕たちを取り囲む参加者は、どれも本格的なロードバイクとウエアの自転車乗りばかり。身体の線がモロに出る、ふだんはちょっと引いてしまうようなファッションが、ここではとても自然に見える。逆に自分たちの自転車やウエアが、中途半端でかっこわるく思えてしまう。秒読みが始まる。バイクにまたがる。周囲の参加者はとてもリラックスしていて、しかも速そうに見える。さあ、初めての自転車イベントへの挑戦。長い長い1日が始まる。ほんの一カ月前には、自転車すら持っていなかった僕らが、この長丁場150kmを走りきれるのか?
なぜ「びわ湖」?
このイベントの舞台が「びわ湖」でなければ参加してなかったと思う。「びわ湖=滋賀=近江」には個人的な「思い」がある。何度も読んだ白洲正子の「近江山河抄」に描かれた、古代の息吹が今も残る土地。司馬遼太郎の「街道をゆく」は、近江の道から始められた。古くから渡来系の人々が移り住み、独特の文化が育まれた文化圏。変化に富んだ自然はもちろん、里山や水郷など、自然と暮らしが解け合った風景が多く残されているのも魅力的だ。近畿でありながら、京都に比べると、訪れることが少ない土地でもある。これまでに全部合わせても10回も訪れていないと思う。大津、草津、大御八幡、彦根、余呉、湖西の近江舞子堅田竹生島沖ノ島…。訪れたのはいつも「点」でしかなかった。一度ゆっくりとびわ湖一周の旅をしてみたいと願って今日まで果たせずにいた。そのびわ湖を自転車で一周するというイベントが、今年から始まった。前後を考えずに申し込んでしまった。自転車も持っていないというのに…。
全長148km「びわ一:びわいち」
自転車乗りの間では自転車でびわ湖を一周することを「びわいち」と言って、一度はチャレンジすべきコースとなっているらしい。びわ湖をフルにめぐると約200kmだが、今回のイベントは、びわ湖大橋から北側のみを走る148kmのコース。早朝の5時台にスタートし、9時間半という制限時間内にゴールしなければならない。レースではないので順位やタイムを競うことはない。ママチャリ、電動アシスト自転車リカンベント、DHバー装着車は禁止。エントリーは小学4年生から可能という。148kmという距離を自転車で走るということがどんな体験なのかまったくわからないが、トライアスロンのロングディスタンスが、水泳:3.8km、バイク:180km、ラン:42.195km(フルマラソン)なので、フルマラソンを走るぐらいの運動量かもしれないと推測。フルを何度か完走した経験があれば充分走れるのではないかと考えたのだ。
会社の仲間を巻き込む。
初めての自転車イベント参加であり、かなり心細かったので、会社の自転車乗りの仲間も巻き込むことにした。参加メンバーは3名。ビアンキクロスバイクで通勤する我が社きっての美人デザイナーT森さん。もう一人は、昨年末に東京から異動してきた長身でスリムなイケメンデザイナーS竹君。その時点で自転車を所有していたのビアンキのT森さんのみ。S竹君は自転車購入を決めていたものの、まだ手に入れていない。僕自身も、どんな自転車を購入するのかさえ決めていなかった。3人とも自転車は、初心者。そんな初心者に150kmもの気の遠くなるような距離を走りきれるのか。
折りたたみ or ロード。
150kmを走るためには、どんなバイクがよいのだろう。しかし、それ以前に、我が家の住宅事情、自分のライフスタイルを考えると、購入すべきは間違いなく折りたたみかミニベロである。マンションの自転車置き場は屋外で盗難が心配だし、家の中に普通のロードバイクを置く場所なんてない。(というより家人が許してくれない)東京勤務時代、BD1という折りたたみバイクに乗って、多摩川などに出かけた経験もある。しかし知人たちは「折りたたみバイクで100kmを超える長距離なんか走れないよ」と言う。そこで、Webで見つけた折りたたみ&ミニベロの専門店「ローロサイクルワークス大阪」に行ってみた。予算は10万円。店のスタッフに恐る恐る「折りたたみでびわ湖一周できるだろうか」と聞いてみると、店のスタッフがBD1で「びわ一」を果たしたことがあるという。またブロンプトンで「びわ一」を達成したスタッフもいるらしい。これは心強いお言葉だった。この段階で僕は「折りたたみ」による「びわ一挑戦」を密かに決意していた。おすすめの車種を何台か提案してもらうが、いまいちピンと来ない。そこで、あらかじめWebや入門本、ムック本などで調べて候補に上げておいた車種について聞いてみる。1台はジャイアントのMR4Fという折りたたみ車。折りたたみとしては24インチという大きいタイヤで、ロードバイク並みの走行が期待できそう。この車種は、僕が東京勤務時代に折りたたみバイクを購入した時に検討したバイクでもあった。当時のレビュー等によると、折りたたみ機構とリアサスのせいか、剛性が不足していて、見かけほど速くないという。しかし、その後改良が加えられ、剛性も改善され、走行性能も高まっているという。もう1台はDAHON DASH P18という折りたたみ。DAHONにはヘリオスSLという超軽量の折りたたみバイクがあり、BD1とどちらにするか、最後まで迷った経験があった。DAHON DASH P18は、タイヤは20インチと小さめだが、独自のインビジブル・フォールディング・スタイルにより剛性も高く、走行性能もよさそうだ。自分の中では、何となく、この2台に絞り込んでいた。しかしMR4Fのほうは在庫がなく、入荷が3月半ばになってしまうということで断念。DAHONのほうは在庫もあり、1週間程度で納車可能だという。一日待って、店に電話してDAHON購入を伝える。納車は一週間後。購入したのはDAHON DASH P18の2011年モデル。すでに2012年モデルも入荷していたが、色が気に入らず、2011年モデルの「黒」に決定。一週間後、昼休みを利用して、自転車を引き取りに行った。簡単に操作や折りたたみの方法のレクチャーを受け、早速乗って帰る。乗った感じは、前に持っていたBD1よりカチッとしていて小気味よい。スピードも、もう少し出るようだ。店頭では印象が強かった「黒」だが、外で見ると少々重苦しく感じる。「白」にしとけばよかったかなと、ちょっと後悔。

練習会@淀川。
S君も、ラレーという英国のクラシカルなクロモリ製ロードバイクを購入。全員のバイクが揃ったところで練習会をすることにした。僕のほうは2月26日に岡山の「総社市のそうじゃ吉備路マラソン」のための練習が忙しく、自転車の練習はほとんどできなかった。そうじゃ吉備路マラソンの翌週の3月3日土曜日に福島区野田阪神駅前に集合。国道2号線から淀川河川敷のコースに出た。淀川の右岸の河川敷をひたすら走り続け、枚方枚方大橋を渡り、今度は左岸の河川敷コースを走り、八幡市に到着。ここで遅い昼食を摂って、同じコースを引き返した。約6時間で75kmを走破。びわ1の約半分の距離を踏破したことになる。若い二人は、これで少し自信をつけたようだ。この練習で、僕のDAHONは、思った以上に走れることがわかったが、本格的なロードバイクのスピードには全然ついていけないことも判明。途中で二人のロードバイクに試乗させてもらったが、加速はあまり変わらないのだが、一定のスピードを維持したままの巡航のしやすさで、天地ほどの差がある。また巡航時の安定感も、軽自動車と大型セダンぐらい差があると感じた。

前日。
会場までどうやって行くかでも迷った。スタート&ゴールは滋賀県長浜市。JRで1時間40分ほど、クルマだと高速道路で2時間近くかかる。受付は午前4時半から、スタートは、午前5時45分からということで、当日、JRを使う「輪行」は不可能。前日入りして現地に泊まるか、当日、クルマで行くしかない。当日、クルマで行くことに決め、レンタカーでハイエースを予約した。午前5時頃現地に到着するためには、大阪市内を午前3時に出発しなければならない。若い人も一緒なの、できるだけ安い費用で参加しようと、この方法を選んだが、ガソリン代、高速代も含めると、輪行&前日泊と変わらなくなってしまった。前日の3月17日、肥後橋近くのレンタカーでハイエースを借り、会社に置いてあった自分の自転車をピックアップして、午後8時頃、福島区野田阪神駅近くのファミレスに集合。3人で夕飯を食べた後、自転車を積み込む。ハイエースには荷物用のロープが付いていたが、積み込むのにけっこう時間がかかった。ハイエースは6人乗りで、後部座席の前に自分のDAHONを積み。荷物室のほうにラレーとビアンキを、ハンドル、サドルを下にして積み込んだ。こんな時、ちゃんとしたロープワークを知らないので苦労する。バイクを積み込んで、タイムズの駐車場に停め、S竹君の部屋に泊めてもらう。自分の息子ぐらい年齢が離れた若者の部屋に泊まるのは、何だかヘンな感じ。広くはないが快適そうなワンルームだ。午前2時に目覚まし時計をセットして眠りについたのが午後10時ぐらい。
当日。
午前2時起床。顔を洗って用意を済ませたのが2時30分ぐらい。S竹君にクルマを取りに行ってもらう。2時45分ぐらいに出発。近所に住んでいるT森さんをピックアップして阪神高速福島入口から高速に乗る。前日降っていた雨は上がっているが、空は厚い雲に閉ざされている。豊中南から名神高速に乗る。北陸自動車道の長浜出口を出たのが午前5時過ぎ。そのまま会場の豊公園に向かう。東の空が少し明るくなってきたような気がする。公園の駐車場にクルマを止め、受付に向う。周囲を見て、仲間が「何か雰囲気違うかも…」と呟く。そう言われると周りの参加者の雰囲気が自分たちとは全然違っている。自転車も本格的というか、戦闘的なロードバイクばかり。ウエアも、身体にぴったりした本格的なヤツ。歩くとカツカツ音がするシューズも。小学4年から参加できる、競争しない、のんびり行こうムードのファミリーな自転車イベントをイメージしていた僕たちは見事に裏切られた。気のせいか、何だか殺気立ってさえいるような緊張感も漂っていて、こっちも緊張してきた。ゼッケンなどを受け取ったあと、主催者から指定された駐車場に向う。事前に申し込んでおいた駐車場は会場から3km以上離れたヤンマー工場の駐車場。クルマを停め、自転車を下し、ウエアを着替える。

僕の装備を記しておこう。自転車用のウエアは、ヘルメットとパッド入りのアンダーパンツ、冬仕様のグローブのみ。後はランニング用ウエアで代用。ミズノのランニング用タイツの上に、ニューバランスのハーフパンツを着用。トップは、メーカー不明のメッシュ半袖Tシャツに、ワコールCWXの冬用ハーフジップを着用。その上にウインドブレーカーを着る。シューズはナイキのランニングシューズ。背中にはワコールCWXのランニング用リュックを背負う。中には、ジェルのサプリなどを収納。モンベルのレインウエアを持って来たが、雨は大丈夫だと信じて、置いていくことにした。この他、サドルの後ろにAIGLEのカメラバッグをつり下げ、工具、予備チューブを収納。iPhoneNike+GPSのアプリを使用するので、予備用の充電バッテリーを収納する小さなデジカメバッグをハンドル部分に装着。ハンドルには、サイクルコンピューターとLEDライトを装備した。この他にも写真や動画を撮ろうと、デジカメを専用ホルダーでハンドルに固定。全員用意が整い、6時10分ごろ、自転車に乗って会場に向う。

スタート。
豊公園に着くとスタート時間の5分前。道を渡ろうとするとスタッフに、止められた。第2組がもうスタートするという「僕らは、その2組なんですけど」と主張するが聞いてもらえない。これではスタートに間に合わないじゃないかと焦る。ほどなく自転車の集団が通過。10台ほどが集団で通り過ぎたあと、ようやく道を通してもらえた。公園のいちばん湖側の道がスタート地点になっている。参加者は自転車を押してゆっくりと進んでいく。マラソン等のスタートと異なり、自転車は10台ほどの小集団ごとにスタートする。小集団ごとに先導車がいて、彼の先導に従って走行することが求めらる。何組かがスタートした後、ようやく順番が回ってきた。秒読みが始まる。30秒前、20秒前、10秒前、5秒前…。そしてスタート!公園を抜け、一般道に出て、スピードを上げる。かなりのペースだ。先導者のペースについて行けずに遅れ始めると、後ろからどんどん追い越していく。追い越しながら「右から抜きます」というように声をかけ、追い抜いた後、左手を横に出して、こちらの前に入って、先に行く。その後に同じような速度の参加者が同じように追い越していく。この後、何度か同じように抜かれ、これが公道で追い越すときのマナーなんだ、と理解した。しばらく左手にみずうみを見ながら北に向って走る。天候は曇天のまま。湖面は、霧なのか数km先も見渡せない。湖北の、この辺りは、近江というよりは、北陸に近い気候のだと感じた。ところどころで竹生島らしき島影が見える。しばらく行くとトンネルに入る。みずうみとしばらくお別れだ。トンネルを抜けると田畑の中の道に出る。前方に山が見える。その山に向って走る。その山の麓あたりが木ノ本で、羽衣伝説で有名な余呉湖も近いはずだ。前方にT字路の交差点があり、自転車の行列ができている。ここで国道に合流するらしく、信号が変わるのが早すぎて渋滞になっているのだ。信号を左折して、ゆるい坂を登っていくと、トンネルがある。名前は賤ヶ岳トンネルという。手前でスタッフに止められ、ライトの点灯を命じられる。慌ててライトを取り出して付けたのち、トンネルに進入する。トンネルでは車道より一段高い歩道を走らなければならない。ここがけっこう恐怖スポット。トンネルの中は道が下りになっているため、かなりのスピードが出る。僕のLEDのライトでは、このスピードでは貧弱すぎて道がよく見えない。しかも車道を大きなトラックが走ると、轟音とともに風圧がやってきて、自転車が一瞬あおられる。やっとトンネルを抜けて、しばらく走ると、最初のエイドステーション到着。

エイドステーション。
ここまで30km足らず。パイプを組んだスタンドに自転車ぶらさげる仕組みも面白い。チェックポイントに行き、ゼッケンを見せてチェックを済ませる。膝を中心に太もも、ふくらはぎに疲労がたまっている。長い階段を登り続けたような、乳酸がたまっているような感覚。まだ5分の1しか走っていないというのに先が思いやられる。給食はバナナとお茶を補給。休んだ時間は10分足らず。トイレを済ませ、出発。短い休憩でも疲労が取れて、ペダルを踏む足が軽くなっている。しばらく走ると急な坂にさしかかり、変速が間に合わず、最後の10mほどで、思わず自転車を降りてしまう。さらにゆるい坂が続き、再びトンネルに入る。今度は歩道が広くて、先ほどのトンネルよりこわくない。トンネルを抜けるて、しばらく走ると再びみずうみ沿いの道に出る。雨は降っていないが、ところどころ道が濡れ、水たまりが道路を横切っている。できるだけ浅そうな箇所を通るように心がける。空もみずうみも灰色で、沖のほうで暗く溶け合っている。風景に色彩がほとんどなく、無機質のモノクロームの写真の中を走っているような不思議な感覚にとらわれ、それはそれで面白い。姉川、浅井などという戦国時代の地名を後にしていく。場所によっては、見晴らしがよく、たぶん比良山をはじめとする雪の残った山々が遠くに見えて、参加者たちが写真を撮っていた。山が湖に迫った厳しい湖北の風景から、キャンプ場や、水泳場、マリーナ、別荘地、ホテルなどが湖畔に点在するリゾートの風景へ、景観が少しずつ変化していく。この頃から、仲間の二人について行くのが、難しくなってきた。先に行くように伝えて、体力の回復をはかる。重いギアでゆっくりこぐより、軽いギアで回転を速くし走るほうが楽だということもわかってきた。後から思えば2番目のエイドステーションまでの区間がいちばんきつかった。パンクしたのか、道ばたでタイヤを外している参加者を何人も見た。一応、前後のタイヤの取り外しとタイヤチューブ交換は、一度だけ練習しておいたが、30分以上かかってしまった。かなりのロスになるのは間違いないので、パンクしないことを祈る。走るペースが同じぐらいなのか、同じ集団と前後して走ることが多くなってきた。どの辺りかはよく憶えていないのだが、中年の女性の参加者がスタッフに支えられて座っている現場を通りすぎた。転倒したのだろうか。救急車がちょうどたどり着いたところだった。この大会で、転倒や事故を見たのは、この時のみだった。60km過ぎの第2エイドステーションには、疲労困憊でたどり着いた。疲労困憊というより、他の部分は何ともないのに、足だけがだるくて痛くてしょうがいない。先に着いていた若い二人に聞いてみると、お尻は痛いが、足のほうはまだ大丈夫だという。やっぱり親子に近い年齢差のせいか。折りたたみバイクのハンディのせいなのか、後半が思いやられる。足は疲れているが、慣れてきたせいか、エイドステーションでは、他人のバイクを眺める余裕が出てきた。こんなにたくさんの種類のロードバイクを見たのは初めてだ。数は多くないががミニベロや折りたたみもちゃんと参加している。雑誌やWebでしか見たことがないようなバイクもいる。DAHONより小径の折りたたみバイクもあって、ちょっと元気づけられた。

10分程度の休憩で、出発。しばらくは湖畔の快適な道を走る。湖沿いは、水泳場や、キャンプ場、公園などが続き、人もクルマも少なくて走りやすい。南に降りて行くにつれて、集落の規模が大きくなり、普通の住宅地が増えていく。湖の中に鳥居が立っている白髭神社を過ぎて、しばらく走ると、JR湖西線と出会い、つかず離れずのまま南下していく。国道161号に出ると、急にクルマの通行が増え、緊張を強いられる。再び県道に入るが、クルマの通行量は少なくない。近江舞子、比良、びわこバレーなど、ずいぶん昔、遊びにきた地名が続くが、記憶はほとんどない。和爾という、いかにも渡来系の人々が移り住んだ地名も面白い。天気がよければびわ湖大橋が見えてくるはずだが、視界が悪く、なかなか見えて来ない。周囲が、日本中どこでもありそうなロードサイドの風景に変わってきたころ。ようやく橋のたもとの観覧車が見えてきた。橋の手前に3番目のエイドステーションがある。

橋のすぐ手前で自転車を降り、かなりの距離を押してエイドステーションにたどり着く。ここではおにぎりの昼食が出た。ここまでで90kmあまり。全行程の5分の3を踏破した。少し長めの休憩を終え、再びバイクを押して橋のたもとまで歩き、橋の入口でバイクにまたがり、走り始める。橋は向こう岸のほうがかすんで見えない。橋の中央まで向って登り、中央から下る。天気がよければ、びわ湖全体を見晴らすことができるが、今日はほとんど何も見えない。橋の登坂は、予想していたほど辛くはないが、仲間の二人からは離れそうになる。橋を渡ると、すぐに左折してびわ湖沿いの県道に出る。けっこうクルマの通行が多い。大きなトラックも時々通るので、バイクは車道の左端に追いやられる。クルマの切れ目を待って、前を行く参加者を追い抜いたり、後ろから追い抜かれたりするので、けっこう緊張する。もう少しで100kmに到達する。その瞬間を見ようとiPhoneの画面を見ると、Nike+GPSのアプリが止まっている。慌てて手袋を脱ぎ、アプリを立ち上げると98.9km。あと少しだと思っていると、すぐにアプリが落ちてしまう。何度やっても98.9kmから先に行かず、落ちてしまう。しかたなく一度アプリを終了し、もう一度立ち上げる。一度アプリを終了するとFacebooktwitterに投稿する設定になっているので、このイベントに挑戦することを知っている友人は、途中でリタイヤしたと思うかもしれない。もう一度アプリを立ち上げた時には、仲間は、はるか先に行ってしまっている。湖南というのか、湖東というのか、守山市から近江八幡市彦根市を抜けていく道は、高低差がないフラットなコースだと油断していた。ところが近江八幡市に入って、湖の中に沖島が見えてきて、しばらく走ると山が海に迫っている場所にさしかかり、ここがけっこうなアップダウンがあった。100km以上を走ってきた足からエネルギーを奪い取っていった。最後の難関ともいえる、この場所を苦労して抜けると、最後のエイドステーション(124.7km)に到着した。ここの給食コーナーでは「近江牛コロッケ」をふるまっていて、長い行列ができていた。ここまで地元グルメっぽい食事はほとんど食べていなかったので、行列に並ぶ。ゴールまでは、23km強。何とか制限時間の9時間半以内にゴールできる見込みが出てきて、仲間の二人も、かなりリラックスしている様子。ここで15分ほど休憩を取ったあと、出発。走り出してしばらくして、前を走っていたS竹君が、コンビニの前に止まっていて、どうしたの?と声をかけると、トイレに行くので先に行ってほしいとのこと。彼を置いて、T森さんと先に行く。その後10分も立たない内に、軽々と追い抜いて、さらにぐんぐん離れていった。T森さんも、僕も懸命に追いかけるが、離される一方だ。後で聞くとS竹君は、最後の区間を「かなり本気で走った」とのこと。先導車が引っ張る集団に、どこまでついて行けるか試してみようと、本気で追っかけたという。最後の最後になって、そのエネルギーが残っているのは凄い。道は彦根市内に入った。彦根市内のみずうみ沿いの道は、ずいぶん昔、クルマで走ったことがあって、とても気持ちのよい道だった記憶が残っていて、今回、ここを走るのを楽しみにしていた。しかし、実際に走ってみると、舗装の粒子が粗い路面が高圧の小径タイヤには合わず、不快な振動に悩まされるだけで、昔を懐かしんで楽しむどころではなかった。
ゴール。
ここに来て、雨がぽつりぽつりと落ちてきた。自転車乗りは雨を嫌うのか、急にペースが上がったように感じた。マラソンなら、この程度の雨は、気持ちがいい位だが…。やがて、みずうみの先のほうに、ゴールの豊公園のそばのホテルが見えてきた。S竹君は、もうとっくにゴールしているだろうか。さっきまではるか先に見えていたいたT森さんのピンクのウエアも、今はもう見えなくなっている。後ろから来たバイクが、ぽんと背中を叩いて、「がんばりましょう」と言って、追い抜いて行った。小径車だが、あっという間に置いて行かれた。ここまで来ると、対向車線に、ゴールして、そのまま、どこかへ帰る参加者とすれ違うようになった。県道から公園内に入って来た時には、前にも、後ろにもバイクがいない。独りで、最後の道を走る。左に折れ、右に折れると、ゴールが見えた。マイクを持った男性が、笑顔で手をあげて待っててくれた。何と言われたのか憶えてないが、彼の手にハイタッチして、ゴール。16時、少し前。長い長い一日が終わった。ゴール後、受付に完走証を発行してもらいに行く。足のだるさと痛みが尋常ではない。立っていることができず、バイクに身体を預けて座り込んでしまった。完走証を受け取り、先にゴールしている仲間と合流。「すごいよ、やったね!」「楽勝っすよ、このまま200kmは走れるかも」と、急に強気の発言をしはじめたS竹君。完走した参加者たちが、すぐそばのステージに順番に上がって記念写真を撮っている。僕たちもそれにならって、記念写真を撮るべく、行列に並んだ。すぐ前の3人組の写真を撮ってあげる。3人組は自転車もウエアもコーディネートが決まっていて、かっこいい。それに比べると僕らは、バイクもばらばら、ウエアもバイクファッションでないのが丸わかりの中途半端さ。それでも精一杯ポーズを決めて、写真を撮ってもらう。写真を撮り終えた頃、不思議なことに足の痛みはほとんど消えていた。後は、帰るだけだ。

S竹君が、「クルマを取りに行って来ます」と元気よく飛び出していった。しかし、10分待っても20分待っても戻って来ない。30分近く立って、ようやく見覚えのあるハイエースが戻ってきた。S竹君の話によると、何人かで一緒に駐車場に行こうとして迷ってしまいました」という。自転車を積み込んで早速出発したのは、もう18時近くだった。仲間は、会場の近くで夕食を食べたかったようだが、当日の19時にレンタカーを返す予定になっている。追加料金を払うにしても、営業所が開いている20時ぐらいまでには返却しなければならないので、急いで高速道路に乗る。北陸自動車道から名神に入ると、渋滞の表示。栗東付近と茨木付近の2カ所で渋滞がある。これは8時にも間に合いそうにない。7時を過ぎた頃、レンタカーの営業所から電話が入る。営業所が午後8時までなので、それまでに戻ってほしいという。午後8時を過ぎると、翌朝8時までの返却になるという。その場合追加料金が12800円発生する。それでは困るので、何とか午後8時過ぎまでに帰ると約束して、先を急ぐ。幸い、茨木付近の渋滞はほとんどなく、豊中から阪神高速に乗ったのが、午後7時50分。梅田出口を出たのが午後8時ちょうど。営業所についたのが、午後8時5分。急いでバイク他の荷物を下ろして、クルマを返却する。会社にバイク他の荷物を置いて、近くのレストランに遅い夕食を食べに行った。ビールで乾杯し、ご飯を食べた。翌日、T森さんは退職することになっていた。会社最後の思い出が今回のロングライド参加になった。1時間あまりで解散。家に帰ったのは午後11時過ぎ。風呂に入って念入りに足をマッサージした。長い長い1日が終わった。ベッドに入って、数分以内に眠りに落ちた。翌日、ひどい筋肉痛に悩まされることもなかった。
総括:自転車のすごさとやさしさ。
生まれて初めて自転車でこんなに長い距離を走った。ほとんど練習もせずに、150kmも走れるなんて、自転車って凄いと思った。一緒に参加した二人も、ふだんスポーツなど、まったくしていないにも関わらず、いきなり150km近くを走れた。今回の挑戦のあと、二人とも、ひどい筋肉痛などに悩まされることもなかったという。マラソンだと、こうは行かない。初めてフルマラソンを走った日の夜は、身体が痛くて眠れなかった。筋肉痛が一週間近く続いた。痛めた足の裏の痛みは1カ月続いた。自転車は身体に優しいスポーツなのだ。さて、これから僕は、自転車を続けることになるのだろうか。新入社員のA君はスコットのクロスバイクを購入した。東京の新入社員T君もキャノンデールのロードバイクを買ったという。仲間と一緒に、このようなスポーツイベントに参加するのは楽しい。ただ僕自身は、スポーツというより、自転車で、のんびりと旅をするような楽しみ方に惹かれている。びわ湖一周も、今回のようにひたすら走るのではなく、近江の町や歴史を散策しながら、美味しい料理を食べて、3日ぐらいかけてのんびり回る旅を楽しみたいと思った。
記録
走行距離 149.5km
平均速度 19.5km/h
最高速度 37.8km/h
走行時間 7時間38分46秒