高野和明「ジェノサイド」

今でも書店で平積みのベストセラー。
昨年のベストセラーを今ごろ読了。クライトン風のハイテクスリラー、SF、軍事モノと、ジャンルを超越している。アメリカのネオコンルワンダの虐殺など、人類の悪意や暴力を語る視点は、伊藤計劃虐殺器官」を思わせるところがあり、期待が高まる。アイデアとしては「人類の進化」「人類VS新人類」で、SFとしては昔からあったテーマだ。「幼年期の終わり」「アトムの子ら」「ダーウィンの使者」など、名作がある。著者は、このテーマを、現代の創薬化学民間軍事会社ネオコンの実態、ジェノサイド以後のアフリカの事情などを盛り込んでスリリングなエンターティンメントに仕立てあげた。いっきに読める。
物語は、急死したウィルス研究者の父から、創薬化学を研究している大学院生の息子にメールが届くところから始まる。メッセージは、自分が密かに開発していた薬を完成させること。難病の息子を抱える特殊部隊出身の傭兵は、息子の治療費を稼ぐために、秘密のミッションを引き受ける。それはコンゴの奥地のジャングルで、危険な致死性の感染症に感染したピグミーの集団を、他の部族に広がる前に抹殺すること。さらに、そこで「見たことがない生き物を見たら、ただちに射殺すること」という奇妙な命令を受ける。父のメッセージに従って、謎を追っていく大学院生、難病の息子のために危険な任務を引き受ける傭兵、さらに米国で計画を立案・推進する責任者、その3人が主人公となって、物語が進んでいく。500ページを超える、厚くて重たい本なのに読了までに要したのは4日ほど。読んで損はない。読み終えて、ちょっともの足りなかったのは、ルワンダ南京の虐殺を取り上げながら、それは、あくまでも現在の人類が持つ不寛容、残虐性によるもの、という結論に留まり、それ以上の掘り下げが無かったことかな。いいところまで来てるのに。