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指南役「テレビは余命7年」

この本はテレビの危機を描いた本である。いわば「警告の書」である。なのに面白い。面白いといってしまっては不謹慎かもしれないが、ぐいぐい引き込まれて読んでしまう。面白さの理由は、僕たちがよく知っていると思い込んでいたテレビの世界の、知らなかった実態が書かれているからだ。著者は、まず「みなさん、うすうす感づいているとは思うけど、最近の民放テレビつまらなくなったと思いません?」と問いかける。ひな壇で芸人がしゃべり続けるバラエティ番組も、ドラマも、ニュース番組もつまらなくなっている。「気がつけばテレビ東京の旅番組かNHKのドキュメンタリー、騒々しくないという理由だけでBSの番組を見ていたりしていませんか。それさえもわずらわしく感じてテレビを消す。するとホッとした気持ちになることも少なくないのでは?」こんな風に問いかけた後、著者は、様々な事例や数字を上げながら、テレビの実態を明らかにしていく。古今の番組から、スタッフ、タレント、業界事情にいたるまで、著者の知識は、広くて、深い。なぜ余命7年か?それは幕末に関係がある。
各章のテーマを紹介すると「なぜテレビがつまらなくなったか?」「田中角栄が創ったテレビのビジネスモデル」「売り上げの8割を広告収入に頼るテレビのピンチ」「テレビは公正か?」「テレビの歴史」「テレビの魔物NHK」「海外のテレビ」「テレビの未来」ということになる。本書の中でテレビの現状を語るために、著者が紹介する事実や数字が「えーっ」や「へーっ」と驚かされるものばかりなのである。例をあげると「日本ではじめての街頭テレビの実験は、テレビ放送が始まった1954年ではなく、戦前の1940年だった。」「テレビ局の社員の平均年収は地方局も含めて、半数以上が1千万円を超えている」「日本では、開局以来、倒産したテレビ局が1社もないこと。こんな業界は他にないこと」「BS放送の広告収入が地上放送の100分の1であること」「テレビの視聴率がいまだに世帯視聴率であり、広告主が個人視聴率で測ることを要求しているのを、放送局側がかたくなに拒んでいること」「テレビ業界にはバブル景気もバブル崩壊もなかった。90年代までずっと右肩上がりでやってきた。」などなど。第2章では、田中角栄が作りあげた、現在まで続く、テレビのビジネスモデルを紹介する。それは次のような仕組みだ。「東京のキー局がナショナルクライアントから莫大な広告料を受け取り、キー局からネットワークされた全国のローカル局に番組とCMを配信し、さらに電波料を支払う。広告主にとってはゴールデンタイムにCMを打てば、たちまち1000万人の人が見てくれる。キー局、ローカル局、広告主のの三者が喜ぶウィン・ウィン・ウィンの関係」である。このビジネスモデルにより90年代のバブル崩壊でも持ちこたえたテレビだが、21世紀になって陰りが見え始める。それがインターネットの台頭による広告収入の減少と2011年の地上デジタル化のための莫大な設備投資だ。この2つが盤石だったテレビ業界を蝕みはじめる。そしてテレビの危機が叫ばれる中で最も問題視されているのがローカル局の体力だという。その他に、「テレビ報道の公正の問題」、「民放が広告収入の減少に苦しむ中、右肩上がりの受信料収入で唯一元気なNHK」の問題などを語ったあと、「米国をはじめとする海外のテレビ事情」を紹介し、テレビの未来へのヒントを探る。そして最終章で、未来のテレビに向けて、著者自身の提案で締めくる。
以上のような内容が、とても興味深く、面白く語られる。こんな本はちょっと見当たらない。自分のように、あまりテレビに興味がない人間にも面白く読めた。だから本書の内容をくわしく紹介してもしょうがない。その面白さまで要約するのは不可能だから…。読んでもらうしかない。著者は、「僕は、フジテレビの『バラエティプランナー大賞』なるバラエティ作家のコンテストに応募し、グランプリに選ばれ、300万円の賞金を手にして会社を辞めた。以来、僕は放送作家としてメディアプランナーとしてーーーーテレビ業界の片隅で生計を立てさせていただいている。そして今も、一貫してテレビが大好きだ」という経歴。テレビをこよなく愛し、テレビの世界を知り尽くした人間にしか書けない本。最終章で著者が提言するのは、まっとうすぎるほどまっとうである。「真面目に、純粋に面白い番組を作っている人たちが、正当に報われる時代」「汗をかいた人たちがちゃんと報われる社会」。そしてエピローグで「今、テレビ界は『幕末』である。」と宣言する。東京キー局は江戸幕府ローカル局は御三家。制作会社は三百諸候の藩。視聴者はーー農民をはじめとする武士以外の人たち。幕末、ペリーの黒船来航から井伊直弼暗殺までが7年。大政奉還が14年後であるという。それを地デジ化のタイミングに重ねると7年後の2018年にテレビの威信を失墜させる大事件が起き、14年後の2025年にかつてのアメリカに倣ってキー局が著作権を返上する、というようにならないだろうかと著者は予言する。また著者によれば2018年の大事件とは、民放キー局のひとつがかつての北海道拓殖銀行と同じように消滅するという。テレビ業界の危機を取り上げた本はたくさん出ているが、本書のようにテレビをこよなく愛しており、テレビの世界を知り尽くした人が書いた本は少ないと思う。