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佐藤尚之『明日のコミュニケーション 「関与する生活者」に愛される方法』


著者とは過去に何度か仕事を一緒にしたことがあり、現在も自分が勤める会社が一緒に仕事をさせていただいている。それにしても、ここ2年ほどの著者の活躍はただごとではない。鳩山首相との会食に始まり、震災以降の八面六臂の奮闘ぶりはソーシャルメディアの申し子と言ってもいい程、絶妙のタイミングだった。こちらは口をぽかんとあけて、ただ見ているしかなかった。時代が大きく変化する時、その変化が訪れる時と場所をあらかじめ知っていたかのように絶好のポジションに立っていた人。それは運がいいとかではなくて 先見性によるものだと思う。話をしていても、この人には勝てっこないなあ、と思わせる人物。思考のスピードは速いが、独りで暴走しない。問題点を見つけるのが巧みで、発想は常にコンセプチュアル、人の話を柔らかく受け止めながら、自らの意見もしっかり主張するタイプ。この1年半ほど、ソーシャルメディアの普及と共にあったと言えるさとなおさんが、ソーシャルメディアによるコミュニケーションの本を書いた。否が応でも期待が高まるのである。
結論から言うと、本書は、たぶん現在に手に入るソーシャルメディアによるコミュニケーションの、もっともわかりやすい指南書だと思う。著者自身の体験を交えたソーシャルメディアの潮流の概説や、人物を例にあげた、とてもわかりやすいソーシャルメディアの解説にはとても説得力がある。しかも、現在でも方法論が確立されていないソーシャルメディアによる企業のコミュニケーションの手法にも、しっかりページを割いて語ってくれている。ソーシャルメディア革命の真ん中を走り続ける著者でしか書けなかった本だと思う。この本を自分の会社のスタッフや業界の同業者たちにもぜひ読んでもらいたいと思っている。
しかし、この本を読んだからといって、明日からいきなりソーシャルメディアを使った企業のコミュニケーションが展開できるわけではない。この本を読むと、ソーシャルメディア時代には、企業も、そのコミュニケーションに関わる人々も、これまでとは大きく異なる考え方や方法が求められるということが痛いほどわかるのだ。特に自分のような、長く広告の制作に関わってきた人間には、今までのキャリアやノウハウをほぼ全否定されたように感じてしまう部分もある。「求められているのは、そこまで180度違ってきているのか」と愕然とするところもある。著者の説明がわかりやすければわかりやすいほど、それは隠しようがない。ソーシャルメディアの時代、広告が上手なだけでは企業は「共感」を得ることができない。商品、サービス、サポートなど、企業の活動全部が一貫性をもってはじめて、共感を手にすることができるのだという。これは、もはや広告の世界の話ではない。コミュニケーションの枠すらも超えた、企業の存在価値や社会的なミッションにまで踏み込んだ本質的なテーマである。「ロング・エンゲージメント」「シェア」の概念は、企業の枠組みすらも超えて、文明のありかたにまで踏み込んだ議論につながっていく。著者も、そのことをよくわかっていると思う。わかった上で、あえて「コミュニケーションの話」にとどめて、自分たちのような企業コミュニケーションや広告の世界の人間を何とか前へ、未来へ向わせようとしている。ありがたいことだ。