恩田陸「きのうの世界」

このところ震災・原発関係、スマートテレビ電子書籍、シェア、コミュニティデザインなど、考えながら読む感じの本が多かったので、息抜きに小説を読むことにした。割と軽く読めて、たっぷり楽しめる長編小説がいい。買ったのは恩田陸「きのうの世界」と奥泉光「神器 軍艦橿原殺人事件」どちらも文庫で上下巻でミステリー。先に「神器」を読み始めたが、これがなかなか手強くて、すんなりと読めない。最初の数十ページを読んだだけで「これはただ者ではない」と判断。そこで「神器」をいったん置き、「きのうの世界」に取りかかる。こちらはおなじみの恩田陸ワールドで、サクサク読める。サクサク読める理由は、純粋な謎解きミステリーではなく、独特の世界観や雰囲気を楽しむ小説だから。東京からかなり離れた地方の「塔と水路の町」M町が舞台だ。このM町で殺人事件が起きる。殺されたのは、1年も前、東京で突然失踪した電気メーカー勤務の男性。現場近くに落ちていたメモ、駅舎のステンドグラスに残された謎のシンボル、双子の老婆、元教師の郷土史研究家、引退した刑事、駅員、高校生…。そして「あなた」という二人称で語られる人物…。様々な人物の視点による謎解きがはじまる。著者は、純粋なミステリーというより、「ノスタルジックな学園青春もの」「伝奇ロマン」「超能力SF」「ホラー」など、様々なジャンルを手がけるが、本書は読み進むにつれ、様々な要素がミックスされた、ある意味著者の集大成のような作品になっている。殺された被害者は、ある特殊な能力を持っていた。塔の役割を町の誰も知らない。町にめぐらされた水路には、何かの役割があり、被害者は、その役割を調べようとしていた。町にははるか昔から続く一族の家があり、その一族が水路に関係があるらしい…。読み進むにつれ、謎が解き明かされていくというよりは、超能力や超常現象で説明されてしまったり、かなり肩すかしの部分もある。クライマックスでは「塔」の役割も明らかになるが、伝奇SFみたいな大掛かりなエンディングも「そう来るか」という意外性はあるのだが、やっぱり肩すかしの印象が強い。また作中で出て来た、駅舎のステンドグラスなどのヒントや被害者の兄弟などの伏線が、宙ぶらりんのままで終わってしまっているのが残念。上下巻を3日ほどで読んでしまったが、全然退屈せず一気読みに近かった。恩田陸ファンなら、間違いなく楽しめるだろうが、自分は不完全燃焼。