境 治「テレビは生き残れるのか」

ここ1〜2年の間読んだ、スマートテレビやテレビの未来を考察した本の中で一番よかった本。よかった理由は、未来のテレビのありかたや広告ビジネスのありかたを曲がりなりにも提示してくれていること。「インターネットやソーシャルメディアの普及によりテレビは衰退・絶滅する」みたいな主張の本は多いが、業界が進むべき未来をきちんと提示してくれている本は少ないからだ。ごく大雑把に要約すると、前半は、「映画にはじまる映像ビジネスの歴史と仕組み」「テレビは高度成長期に生まれ、育った広告費頼みのビジネス」「80年代後半〜90年代後半テレビ広告はメディアの王様になるが、2000年代に入ると急激に失速する」「2000年代、ソーシャルメディアが出現し、スマートデバイスとともに急速に普及していく。テレビ&タブレットによる新しい視聴スタイルが生まれる」「マスメディアでもない、パーソナルメディアでもない『ミドルメディア』の時代が始まる」「これからの時代、ソーシャル・クリエイティブという概念が有効」。
著者によれば、CMや番組を中心としたテレビの世界は、今後も生き残っていくが、その規模はますます小さくなっていく。それに代わってソーシャルメディアの重要性が高まっていく。しかしソーシャルメディアに投入できる予算は、従来のテレビCMに比べると、桁違いに少なくなる…。そんな小さな仕事をクリエイターは受けるべきなのだろうか。著者は受けるべきであると断言する。TwitterFacebookのようにソーシャルメディアによる企業の発信であっても、写真、文章など、ちょっとしたセンスが必要であるという。社内の人材でこのようなソーシャルメディアを担当するのが理想だが、そうした人材を企業が確保するのは難しいため、今後はプロが請け負う機会が増えてくのではないかと、著者は主張する。しかし予算は限られているから、従来のような多くのクリエイターが長い時間をかけて質の高い広告表現を生み出すようなことは不可能である。さらに震災以降、そのような「過剰」は許されなくなっている、という。少人数で短時間に行う「ソーシャル・クリエィティブ」を可能にする体勢や仕組みを作り上げる必要がある。そのためには、これまの「過剰なクリエイティブ」とはまったく異なるクリエイティブが求められるようになるだろうという…。
以下、自分の感想。テレビでも、新聞、雑誌といったメディアでも広告の衰退が語られるようになって、かなりの年月が経っている。それにも関わらず、自分たちクリエイターがどう対応していけばいいのかを記した具体的な提案は少なかった。そんな中で本書は思い切った提案をしていると思う。ここで提示されている「ソーシャル・クリエイティブ」の方向は、決して容易ではないだろう。たぶんそれはイバラの道になるだろう。しかし、じっとして待つより、動いたほうが生き残る可能性は高い。クリエイターの側からの、このような提案があったことに大きな意味があると思った。