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岩崎純一「私には女性の排卵が見える 共感覚者の不思議な世界」

共感覚」には昔から興味があった。音に色を感じたり、文字や数字に色を感じたり、という不思議な能力。著者は、共感覚のひとつとして、女性の生理の周期である月経や排卵が見えたり聞こえたりするという。しかも、それは美しい色や音や触感として体験することができるという。以前「共感覚」に興味を持ったのは、確かライアル・ワトソンの本で、子供たちに音を聞かせて「この音は何色?」と聞いて見ると、かなり高い割合で「答の色」が一致するという。そこからワトソンは、あらゆる現象は、様々なアウトプットを伴ったホリスティックな体験であり、人間は、それを無理やり五感に押し込めてしまったため、「共感覚」の脳力を失ってしまった。というような主張だった。その後、共感覚が、「脳の神経の接続が混線を起こしているために起きる。子供に共感覚が多いのは、脳の神経の接続が完成しておらず、混線が起きやすいため」という説を読んだことがあり、「ホロニックな統合感覚などではなく、ただの神経回路の混線か」と興味を失ってしまった。要するに、共感覚とは、聴覚から入ってきた刺激が、間違って脳の感覚野の別の部分に伝わってしまい、本来は音が聞こえるはずなのに色が見えてしまうのだ。著者は以前にも「音に色が見える世界」という共感覚の本を書いている。本書は、著者の共感覚の中でも女性の性周期を知ることができる能力について詳細に描かれている。興味深いテーマなのだが、「女性の性の周期の知覚」という話だけに、読むのに抵抗があった。女性の読者はどうなのだろう。著者は、自分の、この能力を愛していて、様々な角度から考証を加えていく。自分の体験を、女性に確かめてみると、極めて高い精度で、女性の性周期を知覚できていること。この能力の存在が男性が女性を妊娠させるのに効率のよい能力であること。自分だけでなく、同じような能力を持った男性が他にも存在すること。また昔は、もっと多くの男性が、この能力を持っていたと思われること。多くの動物には、メスの発情(つまり排卵)を知らせる機能があり、人間だけが、その能力を持たないこと。厚化粧や、ピアス、刺青によって、女性の変化が知覚しにくくなるという。著者は、排卵や月経などの変化を知覚すると、まるで自分に起きたかのように視野狭窄や偏頭痛を起きて、集中力が失われてしまうらしい。そのことから著者は、相撲の土俵など、女人禁制の場所というのは、男性の能力が、女性の性周期の影響を避けるために定められているのではないかと推測する。さらに和歌や源氏物語など、古典文学の中に、この能力のことを表現したと思われる記述や言語が数多く存在していること…。確かに、それらの考証が、面白くなくはないのだが、実証的な科学ではなく、著者による個人的な考察に過ぎないように感じた。また、そのような考証を延々と聞かされると、だんだん居心地が悪くなってくるのだ。著者が語っているのは何と言っても「性」についての話である。女性の変化を知覚している時、著者はどのような感覚や感情にとらわれているのか…。それは性的な衝動なのか。もっと高次元の精神的な体験なのか…。もし、著者の言うとおり、この感覚が、女性を効率よく妊娠させるためにあるとしたら、女性の変化に呼応して男性の性機能も高める作用があるのではないかと思う。著者は、自らの、この能力をもっと知り、深く理解するために東大を中退し、研究会のような会を作り、さらに本を書き、Webでも公開している。さらに自分の感覚に理解を示してくれる女性たちと交流を続けているという。著者が、なぜそのような人生を歩むのか、私にはよくわからなかった。ただ、この本に書かれていることは、とても興味深い。自分には、このような感覚はまったくないが、学生時代、同じクラスの友人に、生理中の女性が近づいてきたらはっきりわかるという男性がいたことを覚えている。彼の嗅覚は、自分たちの嗅覚よりも敏感なせいだろうと思っていたが、ひょっとしたら彼にも著者と同じ感覚があったのかもしれない。