佐々木俊尚 「キュレーションの時代」


この著者の本には随分影響を受けていると思う。本書は、「新聞・テレビが消滅する日」「電子書籍の衝撃」に継いで、メディアの未来を真正面から論じたメディア論である。前2作から著者の主張は一貫している。インターネットなど、デジタルメディアの発達と普及によって、従来まで情報発信を独占していた新聞、テレビなどのマスメディアが衰退し、それに代わってGoogleやiTune Storeなどのプラットフォームが台頭する。またブログやYouTube等のCGMと呼ばれる消費者発信型メディアが普及し、それらを使いこなしたユーザーが情報を発信し始める。このようなネットによるメディアの変化に対応できないマスメディアは消滅していくしかない…。本書では、これに加え、2つの概念が提示される。それは「ビオトープ」と「キュレーション」。ブログなどのCGMtwitterFaceBookといったソーシャルメディアの普及によって、ネット上には膨大な情報が氾濫する。その情報の大海の中に、ある特定の情報が集合し、小さな情報生態系ともいえる空間を形成している場がある。著者は、それを「ビオトープ」と名づけて説明しようとする。ネットの世界には、無数のビオトープが存在している。それぞれのビオトープには、無数の情報の中から価値のある情報を見つけ出し、さらに新しい意味や価値を与え、再発信するユーザーがいる。このようなユーザーの存在を著者は「キュレーター」と呼ぶ。ビオトープは生物学の用語。キュレーターは、博物館や美術館などで展示や展覧会などを企画する専門職を指す言葉だ。著者は、この概念をアウトサイダーアーティストのジョゼフ・ヨアキムやヘンリー・ダーガーを例にあげて説明する。また、ビオトープの概念をジスモンチというブラジルのミュージシャンと、彼の音楽を求める熱心なファンへのプロモーションというサンプルで紹介する。「ビオトープ」と「キュレーター」という言葉で、いまネットの世界で起こりつつある大きな変化を語ることが適切であるかどうかは疑問に感じるが、著者の主張は、分かりすぎるほど伝わってくる。情報ビオトープとは情報のコミュニティのことだ。マスメディアによるマスコミュニケーションは消滅し、数十人から数百人の小さな情報のコミュニティを発見し、その中で信頼されている有力なユーザー(キュレーター)の共感を引き出し、それをコミュニティのみんなにシェアしてもらう…。そんなコミュニケーションの時代がもう始まっている。著者はあとがきで「このような世界にあっては、もう旧来の情報流通の常識はいっさい通用しなくなるでしょう。マスメディアを経由して情報をコントロールする旧来の『広告』は消滅します。マスメディアの記者に情報を提供する『広報』も、ビオトープが無数に立ち上がって来る中で、意味をなくしていきます。」と断言する。「新聞・テレビが消滅する日」以降、新しい本を出す度に著者の主張はますますラディカルになっていくかのようだ。しかも著者は、自らの主張を他人がどう感じるか、その反応を確かめる前に、すでにネットの世界のキュレイターとなるべく走りはじめている。その行動を見て、著者の主張を信じようと思った。「広告は消滅する」というシナリオのもとで自分たちは行動していこうと思う。本書を読んで、自分は著者の有料メルマガ「佐々木俊尚のネット未来レポート」を購読することに決めた。http://www.pressa.jp/magazine/index.html今回の東日本大震災でも著者の機関銃のようなキュレーションは目ざましい。著者と内田樹三浦展の3人は、自分がいま最も信頼している論客である。