ポークパイを買う。


帽子好きである。先日、「ポークパイ」というスタイルの帽子を買った。このところハンチングばかり買っているので、ハットは久しぶり。持っている帽子を数えてみると、40個ぐらいある。ランニング用のキャップだけで10個余り。ハットが10個。ハンチングが一番多く、15個ぐらい。しかし、よく被るのは数個に過ぎない。最近被るのはハンチングが多いが、本来はハットが好きだったのだ。20代の頃は、アウトドアっぽいファッションが好みで、それに合わせたハットを毎日被っていた。ところが結婚して、しばらくして家人から「帽子を被ると、顔が暗く見える。被らないほうがいい」と断言された。それから十数年、帽子のブランクがあった。山を歩いたり、旅行に行ったりする時以外は帽子を被らなかった。10年位前に東京に単身赴任していた時に、そばに家人がいないせいか、帽子を被ってみようと思った。しかし帽子という奴は、ふだん被り慣れないと、被ってみるには勇気がいるものである。特にハットは抵抗があるようだ。初めて被って会社に行って、「あれ、どうしたんですか帽子、おしゃれですねえ」と言われたりすると、もう次の日から被っていけない。帽子屋でハットをいろいろ試してみるが、どうしても不自然な感じが抜けず、結局諦めてしまう。自分の中で、抵抗感という点ではハンチングの方が少ないので(昔はハンチングのほうが恥ずかしかった。みんなが被るようになったせいだろうか)結局、ハンチングを買ってしまう。そんな時期が10年近く続いた。先日、いつも買う帽子屋の前を通ると、昔から好きだった「ポークパイ」という形の帽子が目についた。店に入って、被らずに見ていると店のスタッフに「よかったら被ってごらんください」と声を掛けられて、被ってみる気になった。まだ違和感はあるが、被れそうな気がした。ポークパイ型(頂頭部が平な形)で、ツバの部分がかなり狭めで上方に丸く反っているので、軽薄そうに見える。反っているツバを下に全部下ろすとガラリと印象が変わって硬質な感じに変化する。家人なら「暗い」というだろう。そこからツバを後の一部だけ上げると、また印象が変わる。ネクタイでも似合いそうな落ち着いた雰囲気…。まだ違和感は続いているが、そろそろいいかな、という気持ちになってきた。色違いを幾つか試して購入。まだ被って出かけていない。大昔、映画の中に出てくる男達は、みんな帽子を被っていた。ポートレート風の父の写真も、スーツを着て、帽子を被っていた。「帽子はいちばん目立ちます」というキャッチフレーズを見たことがある。自分でも「木陰ひとりぶん」というキャッチフレーズを考えたことがある。帽子が好きな人間は、自己主張が強いのだろうか?帽子好きって、何か心理学的な傾向があるのだろうか? 事務所には帽子掛けを置いてもらっている。そこに帽子を掛けているのは、いまのところ自分だけである。