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デイビッド・ベイショー「追跡する数学者」


主人公である天才数学者の、かつての恋人アーマが、突然失踪してしまう。作家であり、本の装丁家であった彼女は数学者に351冊の本を寄贈して行方をくらます。数学者は、残された本を手がかりに恋人の行方を探しはじめる。ミステリと思って読むと、がっかりすると思う。そのことに早く気がついて、頭を「文学モード」に切り替える必要がある。頻繁に描かれるのはランニングとセックスと数学、そして本の話だ。ボルヘスクンデラ、ミシマ、そしてセルバンテス…。そしてそれらの本に残された恋人のメッセージ。ボルヘスの短篇集に加えられた、ありえない一編の小説、書き換えられた作者の名前、残された書き込み…。蔵書の中に仕掛けられた謎を読み解いていく過程は、それなりに面白い。しかし、そこからランニングの話や、セックスの描写や、数学の話に飛ぶと、なんだかはぐらかされているようで気が散ってしまう。結果として退屈してしまうのだ。主人公には2度の離婚経験があり、二人の元妻とも、失踪したアーマは関係があった。読み進むにつれ、主人公の周囲の人物のほとんどが、アーマと関わりがあることがわかってくる。またアーマは、世界中の書籍収集家とつながりがあり、古い傷んだ書物を修復しながら世界中を旅している。主人公は勤めていた会社を辞め、アーマと関係があった様々な人々を訪ね歩いてゆく。そして走り続ける。そうやって数学者は、アーマを探す出す「数式」を作り出し、その数式に従ってスペインに向かう。結局、アーマは見つかるのだろうか…。最後のほうで、主人公を含め、主要な登場人物たちが、ひとつの場所に定住するのではなく、旅を続けながら生きる人生を選ぼうとする。世界中の本を補修しながら、旅を続けるアーマ、世界の様々な町を移動しながら、翻訳の仕事を続けるルシア、企業分析の仕事で世界中を飛び回るベアトリス。さらに投資会社から送られてくる課題を、天才的な数学の能力で解明する仕事を続けながら、旅を続けようとする数学者。彼らのの生き方が、この小説の、ある種の結論のように思える。