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有川浩「阪急電車」

書店でよく目にするのに、どういうわけかなかなか読む機会が訪れない作家がいる。自分にとっては、東野圭吾、そしてこの有川浩も、ちょっと気になりながら、いまだに購入するところまで至っていない作家の一人。「図書館戦争」シリーズもなんか気になっていたのだが手に取ったことがない。著者の作品がかもしだす何かが、読もうとする気持ちを妨げているのだ。それが何か、よくわからない。本書が、最初に書店に並んだ時は、はっきりと覚えている。この小説で描かれているエリアに住んで、毎日のように阪急電車を利用する自分は、最強の読者ではないか。最近、周囲で本書を読んだ人がいて、よかったとつぶやいている。ある日、逆瀬川の書店に行くと、著者の作品がいっぱい積んであって本書も大量に平積みされていた。サイン入りの本書もあった。この書店にやってきてサイン会でもしたのだろうか。一瞬悩んで、サイン入りじゃないほうを買った。
女性だった!
Wikiで調べてみると、「ライトノベル作家」となっている。他の作品の紹介を見ると「図書館戦争」シリーズや「自衛隊』シリーズなど、軍事&パラレルワールド系のSF作家という位置づけになっていたり、恋愛小説も書いていたりするし、「フリーター、家を買う」みたいな小説も書いているから、よくわからない。それより何より、いちばん驚いたのは「女性作家」だったということ。普通、有川浩と書けば「ありかわひろし」と読むだろう。それが「ありかわひろ」と読ませる。軍事も書けるSF作家ということで、てっきり男性だと思い込んでいた。失礼しました。
西宮北口〜宝塚間の阪急今津線が舞台。
各章は、宝塚から始まる駅名を辿っていく。片道15分という短い乗車区間で起きる、連作というか、オムニバス小説。登場人物たちは、それぞれの悩みや問題をかかえ、ほんの一瞬関わり合い、すれ違っていく。婚約者を寝取られた相手の披露宴に白のドレスで乗り込んでいく女性。宝塚の中央図書館で知り合った男女。遊園地のファミリーランド跡にできたドッグランに孫を連れて遊びに来た帰りのおばあちゃん。自己中心的な恋人に悩む女子大生…。彼らが、わずか15分の間に出会い、それがきっかけで人生を変える決断をしていくという、なかなかアクロバティックな展開。作者は、それをさらりとこなしてしまう、なかなかのストーリーテーラーだ。後半は数カ月後、今度は西宮北口発、宝塚行きの電車内での出来事。新しい乗客も登場し、前半の登場人物たちと関わりながら、物語は進んでいく…。
自分の生活圏が、そのまま小説の舞台になった。
ストーリーをたどってもしょうがないので感想を記しておこう。自分が20年以上住んで、毎日利用している阪急今津線が舞台なので、小説のあらゆるディテールが、より具体的な風景や空間の記憶を伴いながら像を結んでいく。それは、とても不思議な体験だ。ストーリーテーリングも上手いが、人物描写もなかなかで、この著者ならSFから恋愛小説まで、いろいろ書けそうだな、という印象。調べてみると過去に「海の底」というSFを購入していた。「自衛隊シリーズ」の1作らしい。「図書館戦争」シリーズを読んでみようかな。そのうち。