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藤森克彦「単身急増社会の衝撃」

本が読めない。
暑いのと、仕事が忙しいのとで、読書が進まない。こんな時はサクサク読めるミステリーか、ハイテク軍事スリラーか、時代小説を読むのがいちばんなのだが…。憂鬱なテーマの本書、読了まで1週間以上も費やしてしまった。
無縁社会」=「単身化社会」。
今年はじめ頃のエントリー http://d.hatena.ne.jp/nightlander/20100208/1265596923 で、NHKのドキュメンタリー「無縁社会」のことを書いた。都会で、身寄りもなく、友もなく、近所づきあいもない老人が、たった一人で死んでゆく。いま世の中に「無縁死」と呼ばれる死が年間に3万件にも上るという。番組に強い衝撃を受けたものの、独り暮らしを選ぶ人間なら、誰でもある程度「無縁死」の覚悟はできているのではないか。みたいなことを書いた。その後「ドキュメンタリーの続編を期待していたが、放送もなく半年が過ぎた8月、本書を見つけた。本書は「無縁社会」を検証した本なのである。おどろおどろしい響きを持つ「無縁」に比べると「単身」という言葉は普段の会話でも使えそうな普通の言葉である。しかし、この本が描き出す現状は、読者をいやおうなしに荒涼とした現実に引きずりこむ。
「すでに、そこにある、ありふれた危機」
いまから20年後の2030年、三世帯の内の一世帯が単身世帯になる。そして50代、60代の4人の内1人が単身世帯になるという。単身世帯の急増化には様々な原因がある。長寿化による高齢化の進行、未婚男性の急増。非正規雇用の浸透による格差の拡大…。単身化の原因となっている現象自体も、それぞれが、いまの日本で大きな問題となっているから事態は深刻だ。「単身化」とは、いまの日本が抱える状況を、ある一面から捉えたにすぎないのだ。著者は、様々なデータを駆使して単身化の実態を明らかにしていく。文章は具体的で、冷静で、決してあおったり、脅かしたりしない。しかし、だからこそ救いようのない現実がジワジワと読者を追いつめていく。しかも、読んでいくうちに、事態は、2030年という遠い未来の話ではなく、いま、この瞬間に、とても身近なところで起きている問題なのだということを突然理解する。ふと自分の周囲を見回してみれば、単身世帯の高齢者、中年の未婚男性、シングル介護世帯などは、すでに日常茶飯事に存在している。自分も、自分の両親も、友人たちも、単身社会の現実に取り囲まれている。2030年には、事態がさらに進行しているだけのことなのである。
2030年にむけて。
いちおう本書の構成を俯瞰しておく。第1章は、単身社会の実態。単身世帯は、どの世代で、どのエリアで、どのように増えているのか。そして今後、どのように変化していくのかを明らかにする。第2章で、著者は、単身化が社会に与える影響を考察する。それは低所得者層の増加、介護需要の高まり、社会から孤立する人の増加となって表れてくる。さらに現在は単身世帯ではないが、将来的に単身世帯になる可能性が高い「親と同居する40歳以上の未婚者」が抱える問題に注目する。第3章では世界に目を向け、日本より単身世帯率が高い、北欧、西洋の単身事情を紹介し、日本と比較する。北欧で単身世帯が多いのは、個人主義が確立されているのと同時に単身世帯を支える社会システムが充実していることが大きい要素であるという。日本の社会システムは、家族が高齢者を介護することを前提とした極めて安上がりな社会保障システムだという。老後の住宅、収入、介護などが充実していて初めて単身社会が成り立つのだという。
絶望しない。
どんなに冷静な文章で書かれていても深刻さは伝わってくる。読み進むうちに孤独死、介護者による虐待など、救いのない言葉が目に飛び込んでくる。それを読み続ける辛さのあまり、どうせ「独りで死ぬ覚悟はできている」「人間、死ぬときはひとりぼっち」みたいなやけっぱちな気持ちを著者は許してはくれない。この問題から目をそらしてはいけない。方法はある。2030年まで時間はまだまだあると著者は説く。第4章では単身世帯の増加に対してどのような対応が求められるのかを考察する。まず失業者などの自助のために社会はどのような条件を整えるべきなのかを考察し、社会保険生活保護などの公的セーフティーネットのありかたを検証する。さらにボランティアやNPOなどによる地域コミュニティとのつながりの強化の必要性に言及する。それだけではない。単身世帯を支える社会保障システムの拡充のための財源をどこから確保すべきかまでが提言される。本書で明らかにされる単身化社会の実態は深刻そのもので、しかも年々悪化している。そして、その潮流を変えようとする勢力は、あまりに小さく、弱い。しかし著者は絶望しない。怒ることも、諦めもしない。読み終えて、最後まで高ぶることのない、著者の抑制のきいた冷静な文章と、その姿勢に、勇気づけられていることに気がついた。
追記
読んでしばらく経って、疑問がわいてきた。本書は単身化社会の現状と未来を教えてくれる。しかし、なぜ日本がこうなってしまったのかを明らかにはしてくれない。それは、きっととても難しい問題なのだ。誰もこんな風になってしまうことを予測できなかったのだろう。でも、本当にそうなのだろうか?戦後の日本がこうなってしまった経緯をたどることが必ずできると思う。そんな本を読んでみたいと思う。