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福岡伸一「ルリボシカミキリの青」

福岡先生の本は5冊目。
「生物と無生物のあいだ」以来、読み続けている。実は私は理数系の本が大好きなのである。小学校以来、数学はからきし駄目だったのだが、サイエンスに対する憧れだけは人一倍強かった。小学校の高学年からSFを読むようになったのも、そんな理由からだと思う。だから様々な分野の科学の本を読むのが、いまでも好きだ。それも平易な文章で素人にもわかりやすく解説してくれるような本がいい。その中で福岡伸一の本は、群を抜いて面白く、わかりやすい。その理由は文章のうまさ。小説家を思わせるような透明で端正な文章で語られる生物学の世界は、美しく豊かで、驚異に満ちている。カミキリムシは、少年時代、カブトムシやクワガタについで人気があった甲虫だが、ルリボシカミキリには一度も出会ったことがない。こんな美しい昆虫に出会っていたら、もっと昆虫にのめりこんでいたかもしれない。
人間の物語で語る。
もうひとつ福岡伸一の本の特色は「人」にピタリと焦点を結んでいるところだろう。生物学の発展に関わった研究者たちの野心や情熱、そして喜びや、失意…。エッセイは、研究者たちの物語を語ることで、彼らが成し遂げた業績を、成し遂げなかった業績を、より鮮明に浮かび上がらせる。いわば2重焦点のような構造を持っている。これは上手いやり方だ。だから福岡伸一の本を読むと、普通のサイエンス関連の本とはかなり違った読後感がある。
マイ・センス・オブ・ワンダーを見つける。
「ルリボシカミキリの青」には「生物と無生物のあいだ」「できそこないの男たち」「動的平衡」で味わった、優れた小説を読むようなスリルと感動は味わえなかったが、上質のエッセイ集をよむような味わいを楽しめる。研究者の競争や野望や挫折を描いた「生物と無生物のあいだ」は、著者自身の体験や人生を振り返るような、きわめて思い入れの強い世界を題材に書かれた。だから読み終えた時は、重く、切ない感動で満たされた。しかし「ルリボシカミキリの青」は、ほとんどが3〜5ページまでの短いエッセイを集めた本だ。テーマも、生物学から、昆虫、学生たちのファッション、最近買い換えたプリウスAmazonキンドル村上春樹の「1Q84」までと幅広い。読み続けていると、ユーモアも交えた静かな文章から伝わってくる主張がある。それはプロローグの中で語られている。
「大切なのは、何かひとつ好きなことがあること、そしてその好きなことがずっと好きであり続けられることの旅程が、驚くほど豊かで、君を一瞬たりともあきさせないということ。そしてそれは静かに君を励ましつづける。最後の最後まで励ましつづける。」
昆虫マニアや◯◯鉄、化石マニアなど、ひとつのことに夢中になる人々を見つめる著者の目がやさしい。とてもいい本でした。