MOBILE ART LAB 「PhoneBook POPO and MOMO Ride!Ride!」

やられた!
最初にこのアイデアを聞いた時は、「やられた」と思った。そしてYouTubeでコンセプト映像を見て、感動した。紙の本とデジタルメディアが対立しあうのではなく、共存するという発想。携帯や情報端末は、どちらかというと人のコミュニケーションを希薄化していくものだが、それを親子のコミュニケーションに使うというアイデアも素晴らしい。参加しているクリエイターたちも凄い。YouTubeの映像を仕事仲間や取引先にどれだけ見せて回ったことか?iPhoneアプリを開発するチームの隅っこにいる自分にとって、他のアプリとは別格のアプリであり、本だった。5月28日。偶然なのか、注文していたiPadとおなじ日にPhonebookは届けられた。大急ぎでパッケージを開け、iPhoneをセット。無料のアプリは前日の夜にダウンロードしてあった。
残念。
結果は、「残念」のひと言。まず紙の絵本の装丁がチープ。雑誌のおまけの感覚だ。そしてアプリを立ち上げてみる。一番残念な点は、「紙の本」と「デジタルのアプリ」のインターフェイスが連動していないこと。やはり本はページをめくるところから始まってほしい。「読んでくれる人」をクリックするとストーリーが始まる。ページをめくるタイミングになると右下にアイコンが出現し、それに合わせて画面のページをめくる操作を行わなければならない。紙の本とiPhoneを連動させるのが難しいことはわかる。しかし、それを諦めることで失われるものもとても大きいのだ。これによって紙の本が、iPhoneの画面の、単なる額縁になってしまっている。絵本の絵の中で画面は、単なる「窓」でしかない。また、絵本自体ストーリーらしいストーリーが無いことも、紙とデジタルが乖離してしまっている原因だと思う。子どもたちは画面の中に入り込んでしまって、本書が本であること忘れてしまう。自分には子供がいないので「親子で読む」というシチュエーションを体験できなかった。社内の、子供のいるパパが使ってみた印象は「子供たちは結構楽しんでいた」らしい。ということだが…。
iPadの発売と重なってしまった。
もうひとつ本書にとって不幸だったのはiPadという、電子書籍ビジネスのキラーデバイスという機器の発売が重なってしまったこと。これから電子書籍を語るなら、やはりiPadでしょう、というわけだ。しかしiPadでは紙の本との合体は難しいと思う。そういう意味でこの企画は、iPadが出るまでのわずかなタイミングが勝負だったのだ。昨年末か、遅くとも今年の初めに出すべきだったのだと思う。
詰め甘。
最初のアイデアは文句なく素晴らしかったと思う。しかし、様々な制約や問題をすべて克服することはできなかった。何とも残念だ。