佐々木俊尚「電子書籍の衝撃 本は以下に崩壊し、いかに復活するか?」

2010年に読んだ本の中で、いまのところベストの本ではないか。活字中毒者の自分として、とても気なるのが「本の未来」。相次ぐ雑誌の休刊、若者の活字離れ、一部を除いてベストセラーの不在。いっこうに立ち上がって来ない日本版電子書籍のビジネス。そしてAmazonAppleGoogleなどが支配するであろう本の未来…。そんな疑問や不安に正面から答えてくれるのが本書だ。テーマはシンプルだ。「本は電子化でどうなるか?」。このテーマのためにに、著者は、IT業界や、出版業界だけでなく、様々な分野の事象を取り上げ、様々な人の証言を集め、この変化の全体像を描き出そうとしている。アマゾンはキンドルで、いっきに電子書籍のプラットフォームを築き上げてしまった。Apple iPadの挑戦は成功するか。Googleの野望。作家、大手出版社、IT企業による覇権争いの行方。電子化の前例には音楽にある。日本の電子書籍ビジネスはなぜ挫折したのか。取次、返本による流通システムの衰退。雑誌と本の流通は違うべきだ。若者の活字離れという嘘。本が売れない時代に、売れている書店がある。本のコンテクストで売るという発想。セルフパブリッシングという出版のカタチ。「食べログ」と「ミシュランガイド」。ソーシャルメディアのコンテクストで売るマイクロインフルエンサーの出現。本の未来は明るい…。著者の視野は広い。業界だけでなく、世界の全体像を見ようとしている。論理のつながりに荒っぽいところもあるが(80年代〜90年代の消費の変化を「記号消費だけで片付けるのは乱暴)ほぼ納得できる。日本の書籍の流通システムがかなり特殊なこと。ふつうの小説とライトノベルケータイ小説のコンテンツの違いなど「目からウロコ」の部分がいくつもあった。書いてあることを人に喋りたくなった。何よりも気に入ったのは、この本が与えてくれるのは、単なる知識ではなく、ひとつの「ビジョン」であること。そして「未来への希望」であることだ。最後の章を読んでいて、熱くなった。そして勇気づけられた。著者自身が、年間数百冊の本を買い、そのうち百冊は確実に読んでいる、という活字中毒者であるという。本への強い思いが、変わろうとしない出版業界への強い憤りとなり、新しい試みに挑戦する企業や人に対する応援になっている。ちなみに、最初はiPhone用の電子ブックで買ったが、「横書き」が読みにくく、新書で購入しなおした。キンドル日本語版、早く出て欲しい。