読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ジェフ・エドワーズ「原潜デルタⅢを撃沈せよ」上下 文春文庫

潜水艦が好き。海戦小説が好き。という理由で、この手の作品は即、購入する。はじめての作家かと思ったら、以前、同じ作家の「U307を雷撃せよ」を読んでいた。やはり潜水艦もので、なかなかよく書けていた。著者はアメリカ海軍で対潜戦特技官として勤務していた人で、ディテール、リアリティが素晴らしかった。前回はドイツの最新鋭の潜水艦を追跡する話。今回の標的は、ロシアの原潜。トム・クランシー「レッドオクトーバーを追え」が拓いた「潜水艦追跡もの」の最新作だ。ロシアの一地方であるカムチャッカが突然独立を宣言。ペトロパヴロフスクに停泊していたロシアのミサイル原潜を乗っ取り、積氷に覆われたオホーツク海に身を隠す。反乱軍の指導者であるカムチャッカの知事は、独立を認めなければアメリカ、ロシア、日本を核攻撃すると通告する…。軍事スリラーの定石とも言える「狂信的なナショナリストが核を手に入れ、世界を脅迫する」話だ。前作よりスケールが大きくなったぶん、リアリティが弱いかな。しかし、ストーリーの背景となる、ロシア軍の凋落ぶりと、モラル低下による核拡散の危機の描写は、かなり事実に基づいていると思うので結構こわい。軍事スリラーとしては、最新兵器の描写など、専門用語を最小限に抑え、ストーリーがさくさく進んでいく感じ。主要な登場人物も、けっこうチャーミングに描かれている。「ハイテク軍事スリラー」としての一番の見どころは、ステルス性を備えたアメリカ海軍の駆逐艦タワーズ」だろうか。しかし「ステルス艦」の存在は、もうそんなに珍しくないのか、誇らしげに描いてあるという感じではない。ステルス性を備えた水上艦は、J.H.コッブの「ステルス艦カニンガム出撃」にも登場するが、こちらの方がわくわくして読んだ記憶がある。消化不良というか、途中で登場する謎の中国軍も、その役割がいまひとつ曖昧なまま終わっていたり、冒頭で出てくる有人の潜水艇も、後半、活躍しそうな気配なのに、結局登場せずに終わってしまう。でも軍事スリラーファンで、海戦ものや潜水艦ものが好きな人なら文句なく楽しめると思う。最後に、この手の本の日本語タイトルは何とかならないのかな。『「………」を「……」せよ』みたいな紋切り型は止めてほしい。現代は“The Seventh Angel”「第7の天使」のほうが良かったが…。