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内田 樹・釈 徹宗「現代霊性論」読了

「霊性」とはスピリチュアリティのこと。哲学者・内田樹宗教学者釈徹宗神戸女学院大学院において対談形式で行った講義録である。内田先生独特のぶっちゃけ本音語りとユニークな論点。そこに釈先生の広く深い宗教全般への造詣が加わって、とても読みやすく、面白い本になっている。身近な日常の中の儀礼から、スピリチュアルブーム、そして新宗教まで、スピリチュアルな世界の全体像がざっと見渡せる。靖国問題をめぐる議論も興味深く読める。カルトの見分け方など、実用的な部分もある。こんな本はなかなかないと思う。

ただ、前半のスピリチュアルブームの歴史の章は、自分自身のある時期がそのまま語られているようで、けっこうヘビーではあった。80年代〜90年代前半、スピリチュアルな世界にかなりのめりこんだ時代があったのだ。それは、村上春樹の「約束された場所で—underground 2 」を読んだ時にも感じたのと同じ気持ちだ。ニューエイジというのだろうか。ロバート・モンロー「体外への旅」。E.C.ロス「死ぬ瞬間」。シャーリー・マクレーン「アウト・オン・ア・リム」。ジョン・C・リリー「バイオコンピュータとLSD」。そしてライアル・ワトソン「スーパーネイチャー」。降霊術みたいな集まりに参加したこともある。大峰山に登ったのもこの頃だ。サイババが話題になっていた。自己啓発セミナーの勧誘も多かった…。今から思うと、けっこう危ない道を歩いていたと思う。しかし結局、あっちの世界に行くことはなかったのは、なぜだろう。バブルの崩壊があり、阪神大震災が起こり、地下鉄サリン事件が起きた。あれほど心酔していたライアル・ワトソンも、著作の中の捏造を批判され、メディアの表舞台から消えていった。私自身も、いつの間にか書店の「精神世界の本」コーナーに近づかなくなっていた。

そして、2009年、オウム真理教や新興宗教を題材にした3つの作品が出版された。村上春樹1Q84高村薫「太陽を曳く馬」篠田節子「仮想儀礼」。偶然なのか、3作品とも上下2巻におよぶ長編だ。(1Q84はもうすぐBook3が出るが) なぜオウムの事件から15年近くの時間が経ったいま、これらの小説が出てきたのか。

たぶん、スピリチュアルブームは終わっていないのだ。そして私たちを取り巻く状況は、むしろ、より悪いほうへ、より困難なほうへ向かっているのだろう。昔ながらの地縁や血縁に根ざした素朴な信仰や儀礼が失われていくと、それを補うように怪しい「スピリチュアリティ」が浮上してくる。占い、霊能者、カルト…。「現代霊性論」は、そんな時代の道案内になってくれると思う。