飛 浩隆「グラン・ヴァカンス--廃園の天使<1>」ハヤカワ文庫JA

かっこいいSFが読みたかったら、これしかない。
SFだが、その魅力はSFというジャンルを遙かに凌駕している。流麗でスタイリッシュ、審美的ともいえる文章。トリッキーで意表を突くストーリー。舞台は、仮想リゾート“数値海岸”の中の「夏の区界」。ゲストである人間たちの来訪が途絶え、1000年時が経った。南欧の港町を模した仮想空間で「永遠の夏」を生き続けるAIたちの毎日。ある日突然、破局が訪れる…。どうです。この設定、面白そうでしょ。丹念に造形された登場人物たちも、それぞれ魅力があって読みどころ満載だ。
この著者、大学生時代にSF作品を発表し、注目を集めたらしいが、その後沈黙し、10年近いブランクの後、この作品で見事に復活を果たした。島根県で公務員として働きながら超スローペースで創作活動を続けている。これまでに出版された作品は、本書と「象られた力」「ラギッド・ガール--廃園の天使〈2〉」の3冊しかない。シオドア・スタージョンに似ているという人もいるが、自分は、トリッキーなストーリーは山田正紀に、シンボリックな世界観はハーラン・エリスンに似ていると思う。スタイリッシュで華麗な描写で女性のファンも多いのではないかな。「面白いSFを教えて」と言われたら間違いなく本書を推す。他の2冊ももちろんおすすめ。