フランク・シェッツィング「深海のYrr」ハヤカワ文庫

過去3年に読んだSFの中では間違いなくベスト1。いわゆるSFというより、マイクル・クライトン的なハイテク・スリラーに近い。

ノルウエイの海底でゴカイに似た生物がメタンハイドレートの層を掘り崩していることが発見される。このまま掘り進むと大陸棚が崩壊し大津波が発生することになる。同時に世界各地の海洋で異変が起こりはじめる。猛毒くらげやカニ、ロブスターに潜んだ病原体。ホエールウォッチング船を襲うシャチやクジラ。微生物から海洋ほ乳類まで、あらゆる海洋生物が人間を攻撃し始める。

文句なしに面白い。上中下3冊の大作だが、いっきに読んでしまった。海底資源開発、海洋生物学、深海探査、環境保護団体など、様々な分野と様々な地域を舞台にしたスケールの大きさ。北欧の生物学者など、多彩な登場人物たち。著者はドイツ人で、アメリカの作家が書くSFとはトーンが違っている。また、いままでのSFと違う点は、環境的な視点から書かれているからだろうか。海洋冒険もの、深海もの、謎の海洋生物ものが合体し、さらにSF的要素をふんだんに取り入れた、もうハマるしかない作品だ。
知り合いにも薦めて何人かが読んでくれたが、みんな「面白かった」と満足してくれた。SFとしては例外的に女性にも受けがよかったのは「エコ」だから?
同時期に読んだ「人類が消えた世界」も、ある意味で同じテーマで、読後感が何となく似ていた。さらにまったく違うドキュメンタリ「僕は猟師になった」にも同じ空気を感じた。「人間って、自然をどれだけ搾取してきたの?」という思いがそう感じさせたのかもしれない。