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ライアル・ワトソン「エレファントム」

2008年6月に亡くなったワトソン博士の最後から2番目の作品。
ワトソン作品には80年代「未知の贈り物」で初めて出会い、「生命潮流」で人生観が変わるほどの衝撃を受けた。「風の博物誌」や「生命潮流」など、現代の博物誌的な視点と、超常現象など、危うい題材に踏み込んでいく大胆な思索がエキサイティングで、出版された著作は、ほんとんど読んできた。ほどなく著書の中で描いた「百一匹目のサル」や「グリセリン結晶化」など、ねつ造が指摘され、読者や出版界の信頼を失った。「エレファントム」は、そんなワトソン博士の集大成ともいえる作品。少年時代に過ごした南アフリカの自然と、そこで遭遇した象にまつわる不思議な体験…。その不思議な体験を解き明かすために、彼は生物学を志し、さらに様々な分野を遍歴していく。その過程で、ちょっと怪しい、でも魅力的な例の仮説に出会っていく。「水生のサル説」「ヤコブソン器官」「生命潮流」などなど…。そういう意味でも集大成である。なぜワトソン博士が「スーパーネイチャー」など、少し危うい世界に踏み込んでいったのかが、この本を読むと少しだけ納得できた、と思う。ふだん、我々の生活の中では、超常現象的な出来事はふつうに起こっている。誰でも周囲に「見える人」の一人や二人は思い浮かべられると思う。ただその先へ誰も踏み込もうとしない。判断を留保している。それが「あちらの世界」とのつきあい方である。ライアル・ワトソンは、あちら側へ行こうとした。しかし、そこにあるのは、もはや科学ではなかった。彼が描こうとした世界は「すべてがつながっている世界」「一つの大きな潮流としての世界」だったのだと思う。
第6章の最後に出てくる雌象と雌シロナガスクジラが、海岸で超低周波で交流するシーンは、とても美しい。たぶん実証できないだろうが…。